飼い主は、かかりつけのクリニックに薬をもらいに行った。
先生はいつもの流れるような調子で
「どうでしたか~、夏の間~。」
と聞く。
飼い主は、明け方の頭痛、不眠、ムズムズ脚、頻脈などを、流木で一部塞き止められた川のような調子で伝える。
先生は、
「まあ、季節の変わり目ですからね~。
だましだまし、やっていきましょ~。」
と、言葉に変わり目なく言い、いつもの薬に飼い主が所望したロキソニンを足してくれる。
「夏を、乗りきってね、」
と先生が鎖骨のあたりに聴診器をあてる。
飼い主が、
「乗り切れなくて口唇ヘルペスにもなりました。」
と伝えると、
「うーん、免疫力落ちたか~。」
と、また流れるような調子で返す。
先生は、一連の会話で飼い主を観察し終わり、飼い主は重病でないことに今回も安心して診察室を出る。
「季節の変わり目か。
便利な言葉だ。
【ヤバい】と同じくらいオールマイティーな言葉だなあ。」
帰り道、飼い主は実家の見回りをする。
玄関の外に、蜂の死骸などいくつかの虫が目立ち、箒ではく。
先日夫が除草剤を撒いてくれた家の周囲の草は、ほとんどが茶色く枯れていた。
鍵を開けて家に入ると、少しにおいが違う。
真夏のように、ムッとした暑苦しいにおいではない。
「ここも、人並みに季節の変わり目。」