誕生日を前に、飼い主に年金事務所からお知らせがきた。




ふだん、常に資金繰りに苦しんでいる飼い主なのに、自分が年金を受け取る権利を有する年齢になることを、うっかりしていた。
なにしろ、「特別支給の老齢厚生年金」とやらをもらっているのだが、それがあまりにも少額すぎて、忘れているのも無理はない。



昨年、夫が満65歳になったとき、介護保険料の支払いがきて、ガーン!!となったことを覚えている飼い主は、自分にもしっかり請求書がくるだろうことは忘れずに恐々としていて、
「世の中は、儲からない仕組みになっている。
とりっぱぐれの恩恵にあずかることはない。
誕生日がきても、何もめでたくない。」
と思い、夫は働いてくれていても納めるだけ、たまには【もらえる仕組み】があることは考えなかったのだ。
飼い主はひたすら、老後は貧しくなる一方だ、犬も贅沢品だなどと、西行法師のように嘆くばかりであった。





「おお!
これはまさに、天恵!」



案内の資料を読んでいた飼い主は、一瞬、顔がほころびかけたが、数学は苦手でも計算高い飼い主、資料の【84%UP】というところに目を留めた。



「5年間、受給を我慢すれば、42%か。
10年耐えて頑張ればその倍。
この差は、確かに大きい。」



繰り下げに心が動きかけ、実際に計算している途中で、
「これは、取らぬ狸の皮算用かもしれん。
果たして、その頃まで元気でいられるか。
もう働くことはないと思われるが、先のことはわからない。
年金を繰り下げたばかりに、苦しい期間が長引くのも嫌だ。
途中で、やっぱもらお〜、と手続きするのも面倒だ。」
と、面倒に起因する決断決意の早い飼い主は、【もらえる時からもらう】ことを選んだ。



まあ、人生何があるかわからないから、繰り下げはしないでおこうと考える人も、少なからずいるだろう。




「私の年金なんて、微々たるものだ。
しかし、たとえわずかでも、毎年コンスタントに入るなら、それはありがたいことだ。
私の口座から落ちる諸々の費用の心配が少なくなる。
大した仕事はしてこなかったが、40年間、厚生年金国民年金企業年金、何らかの形で支払ってきたんだ。
いただくとしよう。
正々堂々ともらっても、笑われるほどささやかな金額だし。


据え置くことは、年金制度存続の助けになるか、はたまた破綻の片棒かつぎになるか、世の中の情勢も定かでない。」






たまたま帰省していて、飼い主が回答ハガキを記入するのを見ていた娘が、
「お母さんも年金をもらう、そんな年か。
いいんじゃない?繰り下げなくても。
私なんかさ、年金自体もらえる世の中なのか、だいぶ先の制度なんてわからないし、あてにならない。」
と嘆いている。



そして、元気な婆様を見て。
「いいなあ。
お婆ちゃんの世代は、もっといい。
ちゃんとそれなりにもらえてる。
恵まれてるよね。」



確かに。
婆様の世代も、働いて年金を納め、そして受け取っているのだが、娘の世代にしてみれば、すでに不公平感があるらしい。



ボクには年金制度はないですが、もし動物保険の一角に【ワンコ年金】なんかがあったら、飼い主は掛けてくれるのでしょうか。