先日飼い主は、図書館に行って、久しぶりに英語関係の書棚の前に陣取った。
小さな町の図書館、そうたくさんあるわけではないが、ふと一冊の本の背表紙が目にとまった。
「追いつめられて」
かなり前のアメリカ映画の題名。
ケビン・コスナーが主演だった。
「これが、私が英語の道を進んだきっかけなんだ」
飼い主は、同じ大学の、二つの学科を受験した。
英文学科
史学科
そして、二つとも合格した。
どちらの学科にしようかと迷ったとき、父から
「英語の方が、後でつぶしがきく」
と言われ、飼い主はそれに従った。
飼い主は笑う。
「実際の英文学科は、つまらない精読が多くて、予習が膨大で大変だった。卒業した時は、あー、これでもう勉強しなくてすむ!と思ったくらいだ」
「だが、本当に英語をやっていこうと思ったのは、卒業後に見た、この映画の題名一つで」
「原題は、
NO WAY OUT
というのだ。
出口がない状況、まさに追いつめられていること。上手い訳だなあ!と感心して、映画のことはあまり覚えてないけど、この題名は忘れられなくなった。それからは、一つの表現をどうしたらより良く訳せるか、言葉を別の言葉に変える面白さにハマった」
なるほど。
どこで何がきっかけになるか分からないねえ。
社会人になってからの方が、必要あるか否かにかかわらず、興味を持てる英語学習をしたという。
飼い主が教壇に立つようになったのは、なんと40歳を過ぎてから。
学校で教えるようになってから、中学生にも高校生にも、必ず生徒たちに、
「NO WAY OUT を、あなたはどう訳すか」
と問いかけた。
生徒たちは、考える。
「出られない」
「出口はない」
「出してー!」
それでは映画の題名には今イチ、とみんなで笑う。
飼い主は、教室の入り口に立つ。
背中をドアにつけ、腕を少し広げて。
こういう場面なのだと。
なかなか、しっくりくる答はない。
「出る」という言葉にだけ目がいくのではなく、他の角度から見るようにアドバイスする。
「外へは、行けず」
「これで行き止まり」
「ここまでか」
バラエティに富んだ答が増えてくる。
「数学は、1+1=2、のように、答は一つ。人により国により変わったりしない。でも言葉は、1+1の答は、必ずしも2とは限らない。あなたの感性で答が出ることもある」
そんなことも、まあ昔の話だと懐かしく思いながら、「追いつめられて」の本を書棚に戻し、飼い主は一冊の本を借りた。
「これは、ただ写してマネしてみるだけ。でも、何かのきっかけになるかもしれない」
きっかけは、英語では
a start
a chance
an opportunity
a clue
a lead
などがある。
「場面によって上手く使い分ける必要があるが、それを面倒だと思うか、楽しい頭の体操だと思うか」
まあ、ボケ防止にはいいと思いますよ。
ところで飼い主は、その
NO WAY OUT を、当時どう訳したんです?
「逃げる道なし、とか…」
「観念か、覚悟か」
なんだ。
ありがちなものですね。
というか、既に「追いつめられて」というのを目にしているから、何とか出ただけの表現でしょう。
飼い主に何かされる、
これは きっかけでなく
トリガー(引き金)に
なったらたまりません!