飼い主の療養も3日目だ。

病名は「虚血性大腸炎」というらしいが、軽症なので自宅療養になった。
整腸剤と流動食で様子をみている。今日のお昼は、豆腐3cm角をコンソメで煮たものと、プリンの黄色いところだけだったようだ。

飼い主が一番苦手なのは、安静にしていることだ。常に何かしらしていないと気がすまず(働き者とは違う)、ゆったりということが苦痛になるタイプだ。
「ああ、ヨコになっているのは辛い」「これは、私には安静の大獄だ」と、大げさに嘆く。
一年中安静にして怠けている息子に、安静のコツを聞けばいいのに。


そんな飼い主だから、多少体調不良でも、昼間必ずボクを外に出してくれる。
でも、あまり嬉しくない。
散歩ができないから、庭続きのドッグランに行くんだ。

ざっと200平米はある芝生で、ボク専用のランなんだが、ボクはここで走るのが嫌いだ。
飼い主がボールを蹴っても、ボクはあまり追いかけない。
飼い主と違いボクは頭がいいから、芝生の真ん中あたりに立って、どこにボールがきても等距離しか走る必要がない。
気が向かなければ、ボールを通過させてスルーだ。結果、飼い主だけが歩くことになる。



「これでは、伊太郎はたたずんでいるだけで、ドッグスタンドだ」
疲れた飼い主は、しばし芝生の端の、脱走防止用の箱に腰掛けていた。
ボクは、興味ないふりをして、飼い主の頭の中を読み取っていた。

「伊太郎の、あの薄茶色と白の毛並み。理想的に焼けたトーストの色だ。春巻きは、あれではまだらで上手くない、しかし高温では一気にコゲ茶だ。
伊太郎の、あの太ももは、こんがり焼いた方がいいかも…」

3日間、ロクに食べていない飼い主の危険思想に、ボクはさりげなく距離をとって離れて行く。






この写真のどこにボクがいるか、おわかりかな?