人は本当に窮地に陥ると、酷く冷静になる時がある。
反面、いつだって夢見心地。足元がおぼつかなく体が上下する錯覚が襲ってくる。ふわふわと頭の天辺と腰から力が抜ける。
しかし、視界だけは明瞭だ。ピタッとピントを合わせたカメラと同じような働きを続ける。
本当の窮地に陥って、なおかつそれに対抗しようとした時にその感覚はやってくる。
俺は、祖母の死体と弟の顔にピタッとピントを合わせていた。
目の前の現実から逃げようと、何度か試みた。しかし無駄だった。物理的にも精神的にも逃げ出せる状況ではなかった。
俺は、弟の瞳の色にピタッとピントを合わせた。
瞳からは、邪悪なものは一切感じなかった。ただ共に暮らしてきた可愛い弟の目だった。
俺は、弟にピタッとピントを合わせ、言った。
俺がどうにかする……。
……。
