帰宅すれば、急いで妹が迎えに来てくれた。しかし様子がおかしく、真珠に一滴、朱色を混ぜたような肌はすっかり青ざめていた。
妹は「おばあちゃんが、お兄ちゃんが」とつぶやいていた…
妹は俺を二階の祖母の部屋まで連れてきた、俺は手を引かれるままだった。
妹は祖母の部屋の前に立って、俺に戸を開けるように促した。明らかに怯えていた。
強盗か?と聞いても妹は細い肩を震わせているだけだった。
一旦俺は急いで台所に戻り、肉切り包丁を手に取った。包丁が一本無くなっていたように思えた。
急いで妹のところに戻り、俺は丸く冷たいドアノブに手を掛け、戸を開けた。
中には尋常じゃない空気が漂い、嗅いだことの無い匂いが脳の芯まで伝わってきた。
そして俺はその光景を見てはっと固まった、石化したのだ。
背筋が冷え、頭がふつふつと熱くなってくる。判断力が鈍り、景色がぐるんぐるんと回った。
祖母が床に横たわり、弟が立ち尽くす。床には血が染み込み、弟の手に包丁が握られていた。祖母は動かない、弟は俺を振り返った。
その時、取り返しのつかない、しかし変えようのない事実が俺の目の前に立ちふさがった。
弟が祖母を殺したのだ。
背筋を稲妻が走る。それと同時に、さっきまでの暑さや寒さが一気に感じられなくなった。夢を見ている気分だった、大人数の歓声や悲鳴や罵声が耳の中に聞こえた気がした。
弟は泣いていた。「兄ちゃん……」震える声が耳をかすめる。つぶらな瞳から出る涙はどう見ても邪悪なものを感じさせなかった。
次第に大人数の声は小さくなっていった。俺の脇を嫌な汗が一筋流れる。
俺は一つの判断を下そうとしていた。
……。