「私は、山なんか登りませんが?」
「何? この暑い時期にあの山を見れば登りたくなるはずだ!」
「どの山の話ですか?」
「どの山でもいいんだ。
君は、上から制するかね、下から攻めるかね?」
「どちらがおすすめなんですか?」
「どちらからでもいい。
すべてを制するためには、まず心構えが必要だな。
事故には、十分注意するように」
「オーバーだなぁ」
そこに、かき氷がふたつ運ばれてきた。
「たかが氷とあなどるなかれ。
値段分の山登りを楽しむんだ」
上司に連れてこられた甘味処で、待たされる間の会話だった。
上司の言う山登りが、単調にならないよう私は、トッピングを追加していた。
急いで登ると頭がいたくなる。
ゆっくり登ると、溶けてなだれが起こる…。
山が溶けた水を飲むのもうまいと思うのだが。
なるほどと思いながら、私はこの夏、この小さな山を制覇した。(終わり)