始まりは、いつも試行錯誤である。
人々は、彼がやって来るのをひそかに願っている。
「そろそろ、行きますか?」
「…いや、まだだ」
コーチの声も、彼には届かない。
「最高な状態で、みんなの前に立ちたいんだ!」
「体がどうなっても知りませんよ…」
「いつものことじゃないか。
自分が納得できるまで、自分を鍛えておきたい」
その男の体は、以前の体よりひとまわり、たくましくなっていた。
だが、心の広さは何も変わっていない。
「私が出ていけば、すべてが解決するかもしれない。
だが、それではダメだ。
まずは、自分達でなんとかしてみなければならない。
そのあと、その力不足を私が補う程度でいいんだ」
人々は、心から彼の登場を待ち望んでいた。
あとから続く、仲間たちがどんなに暴れようとも、彼にはかなわない。
彼の名は、『台風1号』。
数字が付いていようと付いていなくても、台風といえば、彼のことを指し示す名前なのだ。
彼の現れる前には、強い風が吹くらしい。(終わり)