僕は、大人に早くなりたかった。
「どうやったら、大人になれるの?」
周りの大人達にきいてもなかなか教えてくれない。
ある時、家族と遊園地に行った。
タテに立てた卵に車が2輪ついている乗り物があった。
『答えが見つかる車』。
僕がしつこくねだると、両親は近くのベンチに座って待っているという。
僕は、子ども用の卵の車に乗る。
仕組みは、自転車と同じだ。
大人用の卵の車は、ひとまわり大きい。
大人も利用していた。
僕がペダルをこぐと、目の前の画面にニワトリのかぶりものをした男がいた。
(こんな人に答えが出せるのだろうか?)
不安を感じる。
「質問はなんだい?オジサンが答えてあげよう」
「どうやったら、早く大人になれますか」
ニワトリ男は、目をつぶり考えているようだ。
「ペダルを早くこげばよい」
半信半疑だ。でも、とにかくやってみよう。
僕は全速力でペダルをこいだ、死に物狂いで。
やがて時間が来て、乗り物からおりた。
振り返ると、卵型自転車が、大人用に変わっていた。
「そんな…、こんなの早すぎるよ」
ベンチに座る両親は年老いていた。
「いやだ、もう少し、子どものままでいる!」
僕は、再び大人用卵型自転車に乗り込んだ。
(さっきの大人は、もしかしたら元子どもだったのかな?)
(もう、早く大人になりたいなんて言わない。)
僕は、元に戻った両親のもとに泣きながら駆け寄るのだった。
両親は、何が起こったのか気がついていないようだ。
「怖かったのかしら」
僕は思わずうなずくしかできなかった。(おわり)