オリジナルアルバム「春なのに」(1983)がそれまでの柏原芳恵のオリジナルアルバムに比して倍レベルの売上枚数を記録したことは、その後の柏原のアルバム制作動向に大きく影響を与えたように見受けられる。後年から振り返ればこの増加分は中島みゆきファンが買ったものだろうと推察されるのだが、当時は柏原のアーティスト志向が受け入れられたためと受け取ってシンガーソングライター系のアーティストを起用したアルバムを制作する方向に舵を切ったのだろう。その結果出来た「夢模様」(1983)は自分にとっては「春なのに」中盤以降の雰囲気を継承した好アルバムだと感じるものになったのだが、残念ながら売上枚数でみれば「春なのに」より前のアルバムと同等程度のものに終わったようだ。

 

柏原1983年3枚目のオリジナルアルバム「TINY MEMORY」は、シングル曲1曲のみが柏原のための新規書き下ろしであとの曲は過去の作品のカバーになっているという点では「春なのに」と全く同じ・アーティストが松山千春に変わっただけ^^;という意味で制作サイドの試行錯誤がうかがえるように思える。自分は特に松山のファンではないのでオリジナル曲を聴いたものは1曲もないが^^;、選曲をみると初期作品が多いようだ(ファーストアルバム「君のために作った歌」(1977)より2曲・セカンドアルバム「こんな夜は」(1978)より2曲・サードアルバム「歩き続ける時」(1978)より1曲・4thアルバム「空を飛ぶ鳥のように 野を駈ける風のように」(1979)より1曲・7thアルバム「時代(とき)をこえて」(1981)より1曲・8thアルバム「大いなる愛よ夢よ」(1982)より1曲、そして1977年リリースのシングルレコードB面の曲が1曲)。このうち「かざぐるま」「初恋」は自分でも曲名は知っているくらいの知名度があるとはいえメジャーな松山のシングル曲を無理に歌わせているというような印象はなく、おそらく松山ファンなら通好みというか柏原向きの曲を選んでいるのだろうとうかがわせる編集方針には好感が持てる。とはいうものの売上の面で「春なのに」以外の柏原のアルバムと大きく変わらない結果となったのは不思議な気もするが、松山ファンがこのようなカバーに無関心なタイプで聴いてみたいと思わなかったからなのか、松山自身1983年中盤くらいからシングルレコードの売上ランキングが振るわなくなるなど退潮傾向がみられるようになってきた時期にあたるためなのか。

 

編曲の顔ぶれでは、前2作でも主要なアレンジャーとして名を連ねた石川鷹彦に青木望という、実に自分好みなタイプである^^; 不思議なことに、シングルバージョンの「タイニー・メモリー」のアレンジャーが石川なのにこのアルバムではこの曲だけのために瀬尾一三が起用されている。シングルバージョンのきらきらした華やかさがアルバムにそぐわないと判断したのか。そう思ってしまうくらい、ときどき息抜きみたいにタッチの軽い曲が挟まれているとはいえ、全般的に陰りを帯びた雰囲気で統一された感があり、実に聴きばえのする見事なアルバムだ。前作「夢模様」とどちらが上か判断に迷うし、安直に決めたくはない。

 

冒頭、「南風にのせて」は柏原本人がこのアルバム中のベストに挙げた自信作。ノスタルジックな雰囲気の情感溢れる曲だ。この曲もハイテンションというタイプではないが、続く「かざぐるま」が青木によるストリングス主体の重々しいアレンジで一気に曲の世界へと引きずり込んでくる。3曲目「貴方のことで」は石川アレンジだが、前曲の雰囲気をうまく引き継いで、ピアノ主体のイントロはセンチメンタルな哀感をかき立てる。しかし中盤からは力強くリズミカルな表情へと変わりドラマティックな高まりをみせる。

 

このあたりは重々しすぎて聴きつづけるのがしんどくなるかという直前になって、4曲目「あたい」は一転してあっけらかんとした曲調になる^^; このあたりの起伏のつけ方は絶妙だ。しかしLPでいうA面最後の曲「白い花」はふたたび悲しげな色調に戻る。中盤の間奏でのストリングスが美しい。「貴方のことで」もそうだが、柏原の歌唱は美しいながらも意外に芯があって凛としているので、ドラマティックな曲が割と合っていると思う。

 

LPでいうB面冒頭は「初恋」。石川アレンジだが、チェンバロを思わせるイントロや間奏、合いの手がチャーミング。しみじみと聴かせてくれる。続く「私を見つめて」も落ち着いた曲調だが、しっとりしたボサノバっぽい味わい。石川のアレンジもむろん好調だが、やはり青木のアレンジの方が自分にはぴったりとくる^^;  B面3曲目「愛は気まぐれ」はイントロと間奏のサックスが聴きもの。演奏者のクレジットはないが、もしかしたらジェイクか^^; 決して明るくはないが、「初恋」に近い情感溢れる曲だ。

 

B面4曲目が「タイニー・メモリー」アルバムバージョンで、前曲からの雰囲気に近いアレンジだ。前述のとおりこの曲だけが柏原向けに書き下ろされた新曲となる格好だが、松山が18歳のアイドルだからこんなものだろうと乙女チックな詞を書いているような雰囲気を漂わせているのが物足りない。こちらの邪推か^^; A面の「貴方のことで」「白い花」、最後の「限りある命」のようなドラマティックな曲を充分に聴きごたえあるものとしている柏原の歌唱に比して、ちょっと甘ったるさが鼻についてしまう造りになっている気がする。このあたりは瀬尾のアレンジでも払拭されているとまでいえないくらいだが、「限りある命」の前ふりとして多少軽やかなくらいの方が対照的でいいのだろうと思うことにする^^; それくらい、最後の「限りある命」がまた重々しく、聴きごたえあるフィナーレとなっているのだ。ちなみにこれも青木アレンジ^^;