桃井かおりといえば独特な存在感を持つ女優として名高いが、一時期歌手としても活動しており、ファーストアルバム「ONE」(1977)は10万枚以上のセールスを記録したといわれる。しかし、おそらく歌手活動においてもっとも有名なのは来生たかおとのデュエット曲「ねじれたハートで」(1982)であろう。来生姉弟からはセカンドアルバム「TWO」(1978)の際から曲の提供を受けているが、来生が1981年末に薬師丸ひろ子「セーラー服と機関銃」・大橋純子「シルエット・ロマンス」と立て続けにヒットを飛ばした影響か、来生の曲だけでアルバムを制作しようという企画が持ち上がったものと思われる。ただし、「ねじれたハートで」のリリースはアルバム「Show?」(1982)より数カ月先行しているので、デュエットの企画が先行して後でアルバムの制作に到ったのか、アルバムの企画が先であったものか、前後関係ははっきりしない。ともあれ、そのようなアルバムがあるとは知っていたので来生ファンとしては気になる存在であったのだが、このたびヤフオクにて安く入手することが叶ったので採り上げることとした。

 

「Show?」は来生姉弟による新作と過去の作品のカバー、来生えつこ以外の作詞になる来生の曲とで構成されている。来生えつこ以外の作詞の顔ぶれは大岡悦子と伊達歩になっている。伊達は伊集院静(1950〜2023)の別名として有名だが、大岡は郷ひろみ「シャトレ・アモーナ・ホテル」(1983)の訳詞が知られているぐらいで詳細は分からなかった。アレンジは来生のアルバムではおなじみの星勝のほか、若草恵が手がけている。星のアレンジも聴き慣れているだけに身びいきしてしまうところもあるが、やはり若草のアレンジしている曲のほうがストリングスの扱いのセンスなど好みである。

 

冒頭の「シングル・ナイト」はシングル「ねじれたハートで」のカップリング曲で、来生は翌年のアルバム「Visitor」(1983)にてセルフカバーしている。歌詞カードには来生とのデュエットと記載されているが、実際にはバックコーラスをしている程度で来生ピンになる歌唱の部分はない。「Visitor」のものに比べるとアレンジのセンスに古風なところを感じてしまうのが引っかかるが^^;、桃井のキャラクターを意識したかのような歌詞だけに桃井の歌いぶりにはしっくりとくるものがある。しかし、続く「さみしくもなくて」の気だるく渋い味わいの方が一層聴きばえのするものだ。なお、大岡の詞はこの1曲のみ。3曲目「とにかく、あした」は、来生1981年リリースのシングル曲のカバー。アレンジはどちらも若草だが、桃井バージョンの方がラテン的な色彩をより強めている印象。来生がアーティスト活動に迷いを生じていた時期の曲だけに、あまり来生らしくないメロディといえなくもない^^;  個人的には桃井の歌唱に軍配を上げたい。

 

「ねじれたハートで」は4曲目。少し侘しい雰囲気のアレンジが桃井・来生の歌唱とマッチしていて味わい深い。とはいえ、次の「むらさきいろの…」の方が一層の盛り上がりをみせていて、前半のクライマックスを築いていると思う。これは来生姉弟による新作。一方、LPでいうB面冒頭「Sparking head」は来生の旧作アルバム「Sparkle」(1981)収録曲のカバー。個人的にはなぜこの曲?とか思ってしまうが^^;、桃井が気に入ったからなのか、歌唱は堂に入っている。アレンジもなかなかゴージャズで、「Sparkle」のものより好みのタイプ。しかし、次の「パラドックス・ブルース」のジャジーな味わいの方が一層惹かれるものである。これは伊達の詞に合わせたアレンジであるように見受けられる。

 

B面3曲目「疑惑」は、ほぼ同時期にリリースされている来生のシングル曲のカバーだが、これもアレンジの躍動感が生きていて来生バージョンより気に入った。ただ、桃井のキャラクターとはちょっと違う?と思わされる歌詞ではある^^; なお、桃井はこの時期同じタイトルの映画(原作は松本清張の短篇)に出演していてつい関連があるのか?と疑ってしまうが、たまたまの結果のようだ^^; 次の「エレベータの女」は伊達の手になる詞のもう1曲だが、悪い曲ではないものの「パラドックス・ブルース」ほどぴったりくる曲とは感じなかった。

 

最後の「逢瀬」は、来生が「LABYRINTH」(1984)にてセルフカバーしているもののデュエット版。「LABYRINTH」といえばアレンジがポール・モーリアの絶美なものだしこのイントロの夢幻的な雰囲気に伍するのは困難なところだが、このアルバムにおける星もなかなか健闘している。しっとりとしてしみじみ聴かせてくれるし、そもそもデュエット曲として書かれているだけにこちらの方がしっくりとくる。むろん「ねじれたハートで」もいい曲だとは思うが、個人的にはこの曲の詞のほうが来生らしさの出ているものだと思う。来生えつこもこの詞が気に入っているのか、自作の詞をベースにした短篇を集めた書籍「エピソード」において原作とした詞のなかに選んでいる。