1985年に発売された「夏の愛人」は、山本達彦にとってシングルにおける最大のセールスを記録した。これは飲料のCMソングであったが、以後「密室のtango」「密会のHIGH NOON」(ともに1986)と、CMソングによるシングルが重なり、かつオリジナルアルバムには未収録というパターンが続いている。また、1985年末にはインストゥルメンタルアルバム「MY FAVORITES」とライブアルバム「STAGE SELECTION」が立て続けに発売されるという、多彩な活動がみられている。当時、自分にとって山本は「しばしばCMソングで目を惹く」ぐらいの存在だったので気づかなかったが^^;、山本はシングル盤に比してオリジナルアルバムの売上げが目覚ましいというアルバムアーティストであっただけに、このような試みが可能であったのだろう。なお、オリジナルアルバムには入らなかった上記シングル3曲も、その後ベストアルバムとの扱いで「FACES」(1986)に収められた。
これらのシングル盤と時期的に重なるオリジナルアルバム「TO BE」(1986)は、これらとはコンセプトの異なるものとしてまとめられたようだ。「80年代AORの旗手、山本達彦のラブ・ソング中心のアルバムから一変して"生きる"ということを意識し、作詞家・売野雅勇とシリアスな人生観を強い8ビートで表現したアルバム」と販売されているサイトでは紹介されているが、表題曲「TO BE」は売野作詞ではなく杉山政美作詞である^^; 売野作詞は3曲だけだが、確かに「STARDUST MERMAID」「WONDERFUL NIGHT」などインパクトのある曲を担当しているのは確かだ。上記シングル3曲も売野作詞だが、これらの曲の制作を介してオリジナルアルバムの方も一緒にやってみるかということになったのだろうか。その他の顔ぶれは、松尾由紀夫・佐藤準など、これまでもコラボレーションしてきた人が目立つ印象である。今回は2曲だけだが、その後のアルバムで参画が目立つ吉元由美が顔を出している。
シングル盤だとB面になっている曲が含まれているとはいえ、やはりA面に入ったものがないと地味に思えてしまう面は確かにあるが、前記のとおり山本がノッている時期の作品なので、エネルギッシュな勢いで聴かせてくれる。冒頭の「SHAKE SHAKE SHAKE」から印象は強烈である。つづく「BREATHLESS」「FLAMINGO TABOO」など、イントロのメカニカルな感触が目を惹くが、佐藤のほかにもう1人アレンジを手がけているのが大村雅朗だったりするので、佐藤のアレンジではあるが大村の影響を受けているというのはあるのかもしれないと思った。表題曲「TO BE」は一転して落ち着いた雰囲気になるが、クールな大人っぽさを漂わせている異色曲と感ずる。一転して「STARDUST MERMAID」はオーソドックスな山本らしさが出ているように思う。以降、中盤から後半にかけては比較的おとなしめの曲調のものが続いている印象だが、「優しい朝」はラストのコーラスが情感豊かでしみじみとさせてくれる。このまま終わるのかと思えば、「WONDERFUL NIGHT」で一転、結びというよりは新たな始まりかと思わせる幕切れを迎える。