このアルバムから、瀬尾一三をプロデューサーに迎える直前のアルバム「中島みゆき」(1988)までの時期を、中島みゆき本人は「御乱心の時代」などと(おそらく自嘲も込めて)言っているようである。確かに、この時期のアルバムは1作ごとに手を変え品を変えという感じで、腰の定まらないところはある。しかし、従来よりアグレッシブな聴きばえのする作風を志向しながらそれまでの意味深な歌詞の味わいもしばしば現れてくるという、この微妙なバランスが自分にとっては捨てがたく、むしろ昨今の自分にとっては愛着を感じるものが多い。

 

この時期のアルバムのアレンジは日替わりのように変わっている印象だが、このアルバムでは小野崎孝輔と倉田信雄の2人がだいたい半々で担当している。倉田は後年シングル「つめたい別れ」も手掛けているようだが、小野崎との関わりはこのアルバムだけに終わったようである。経歴を見ると小野崎はロック畑というよりはクラシカルなスタイルを志向しているような印象で、このアルバムの作風と違うような気がしないでもないが^^;、個人的にはもっと中島とのコラボレーションを見てみたかった気がする。

 

そう思ってしまうのは、冒頭の「僕は青い鳥」の出来があまりに素晴らしく、自分にとっては中島の曲のなかでも指折りのものだからである。イントロのピアノからしてツボに嵌っていて、オーケストラの使い方も自分好みそのままと思ってしまったりする。むろん歌詞も暗示に富んでいて、いかにも中島らしいと思わせる。実際には1979年の段階ですでにコンサートで取り上げられた作品というのもあるのかもしれない。次の「幸福論」もアレンジは小野崎だが、前曲とは打って変わってアグレッシブな出来で、作品の中に引きずり込まれるような吸引力がある。歌詞も幾分ストレートにはなっているが、いかにもこれまでの中島らしい警句も聴ける。

 

3曲目は倉田のアレンジになる「ひとり」。この曲は船山基紀のアレンジで先にシングル発売されていて、そちらもいかにもこの時期の中島らしいスタイルの佳作だが、このアルバムにおいてはバラード調に改変されており、それに伴ってアーティキュレーションばかりでなく歌詞の言い回しも幾分改められている。こちらのずっしりとくる味わいもやはり魅力的である。前半(LPでいうA面)はここまででもすでにお腹いっぱいと思うくらいの充実感だが、最後の「彼女によろしく」も、やや地味には感じてしまうが、従来の中島の作風を思わせるしんみりした佳作だと思う。かと思うと、後半(LPでいうB面)は打って変わってアグレッシブな「不良」が冒頭に置かれていて、びっくりさせられる。アルバムを交響曲に見立てるならスケルツォか^^;

 

さすがに後半は前半に比べると相対的に軽い?とか思わされてしまうが^^;、「春までなんぼ」はいかにも従来の中島らしい歌詞で目を惹く。「いらない鳥を逃がしてあげた/逃がしてすぐに 野良猫喰べた/自由の歌が親切顔で/そういうふうに誰かを喰べる」というくだりにぎょっとさせられる。この曲ほどではないが、次の「僕たちの将来」も歌詞に描かれている人間描写が見事だ。ちなみに、Mr.Childrenの桜井和寿がBank Bandというカバーを中心としたグループにて歌った曲に選ばれているという(「沿志奏逢」2004年)。最後の曲は表題曲「はじめまして」で、新たな旅立ちを暗示するかのようなロケットの発射音が冒頭に置かれている。やや軽い気はするが^^;、明るい締めくくりになっているとはいえる。