ほぼ4年ぶりの更新です^^;

 

2020年当時のコロナ禍の影響で、音楽を聴く気分にならない日が数年続きましたが、日常を取り戻すにつれ、このレビューも再開したいという思いが頭をもたげてくるようになりました。今後のことはまだ何とも言えませんが、とりあえず開始当初はレコードが手元になくレビューを書くのがためらわれた郷ひろみのアルバムについて扱いたいと思います。西城秀樹のところでも書きましたが、新御三家のアルバムは不当に扱いが雑で聴く環境が整っていないように思います(もっとも、野口五郎についてはオリジナルアルバムを聴いていないので、判断しようがないところはあるのですが^^;)とはいえ、この原稿を書くため確認したところ、こんにちではいくつかのアルバムは配信で入手できるようになっており、ある程度改善してきているようです。

 

郷ひろみは、2024年現在でも110枚目のシングル「できるだけ、」を発売してなお歌手活動の盛んなところをみせているが、オリジナルアルバムについては2010年までに37枚となっている。そのなかでひとつの画期となったのが「哀愁のカサブランカ」(1982)であったといえよう。

 

当時の郷のシングル・アルバムのセールス状況を確認すると、前年の「お嫁サンバ」あたりを最後に思わしくない状況が続いているのが分かる。デビューから10年を迎えて、何らかの変化が求められていたのだといえよう。そんなとき訪れたのが、「哀愁のカサブランカ」という曲との出会いであった。この曲との出会いは、ラジオ番組での企画という偶然に負うところも大きかったが、郷にとっては大きな転機を迎えるチャンスを捉えたといえるだろう。

 

長くなるが、シングル「哀愁のカサブランカ」をめぐる経過をかいつまんでおさえておく。ニッポン放送「オールナイト・電リク」においてバーティー・ヒギンス「Casablanca」の訳詞と日本で歌うのにふさわしいアーティストを募り、その結果選ばれたのが郷であった。この企画版「カサブランカ」は放送後大きな反響があったというが、権利上の問題か内容の問題なのか定かではないが、一般に発売されたのは、山川啓介が訳詞を担当した「哀愁のカサブランカ」となった。このシングルは郷にひさびさのトップ一桁台のヒットをもたらしたが、低迷していた時期に思うところがあったのか、この曲ではランキング番組への出演を拒否するようになった。当時中学生だった自分はリアルでこのエピソードを知ったが、なかなかインパクトはあったように記憶している。当時の郷のファンはこれを受け入れてリクエストはがきを書く人が減ったのか、シングルレコードの売上状況に比して「ザ・ベストテン」では以後ランクインしなくなったようである。

 

この「ランキング番組拒否」が従来の郷のイメージを変えた面は、確実にあったといえるだろう。シングル「哀愁のカサブランカ」のヒットに伴って、アルバム「哀愁のカサブランカ」も好セールスを迎えた。これはシングル以上に画期的な事柄で、1977年発表の「アイドルNo1」以来のこととなった。ここで郷は「オリジナルアルバムを活動のメインに据えたアーティスト」に変わるチャンスを得たといえる。実際、ここから数作、郷はこの路線を模索していっているようである。

 

経緯の確認が長くなったが^^;、いよいよアルバムについて書いていく。軸となるシングル曲が「哀愁のカサブランカ」であるためか、洋楽のカバーを中心としたものとなっている。しかし、それ以外にも注目すべき曲がある。

 

冒頭は表題曲「哀愁のカサブランカ」だが、アルバム全体の序曲というのを意識してか、オーケストラの長いイントロで始まるヴァージョンとなっており、アーティキュレーションも少し変えられている(もっとも、これはやらなかった方がよかったと思う^^;)。2曲目からはフリオ・イグレシアスの曲のカバーが3曲続く。もっとも、真ん中の「ロマンス」は映画「禁じられた遊び」で使われて有名になった「愛のロマンス」のそのまたカバーなので、あまりイグレシアスの曲というイメージはないが^^; 脱線するが、なぜかこの曲はずっと後になってからシングルカットされ、「ケアレス・ウィスパー」以前に西城秀樹とカバー競作になっているなど、エピソードに事欠かない。もっとも、個人的に好きなのは、3曲目の「終着駅の女」である。物々しい雰囲気のなかにラテン的な情熱を秘めているようである。

 

LP盤(Wikipediaでは確認できないが、3500円時代のCDを中古屋で見かけた記憶があるので、LPと同時発売ではなかったとしてもどこかでCDも発売されたはずである)だと最後の曲になるのが、来生たかおの代表曲として名高い「GOODBYE DAY」である。このアルバムは「哀愁のカサブランカ」のアレンジャー若草恵と川口真の2人でだいたい半分ずつアレンジを担当しているが、この曲は川口が担当である。来生の歌唱とは大きな開きがあるが^^;、これはこれで聴きばえのある名品である。郷もこの曲はお気に入りのようで、後年ニューヴァージョンで再録音なども行なっている。

 

LP盤でB面にあたる始まりも洋楽のカバーからである。個人的には2曲目の「さよならロンリー・ラブ」が好きである(オーストラリアのポップデュオ、エア・サプライの曲だそうである)。3曲目からは国産^^;で、「若草の萌える頃」は「哀愁のカサブランカ」と同じ山川啓介の詞になる。 雰囲気的には洋楽っぽいところもあるが、川口のアレンジも美しいし、情熱的ななかに諦念も漂わせる佳曲である。最後の曲はふたたび来生たかおからのカバーとなる「長雨」である。来生作品を扱っているのは、「哀愁のカサブランカ」のひとつ前のシングルが同じ来生作品「女であれ、男であれ」であったのと関わりあるのかもしれないが、「GOODBYE DAY」はともかく、なぜ来生にとってごく初期の作品をこの時期になって扱ったのかは理解に苦しむ^^; とは言うものの、若草の美しいアレンジのためもあって、個人的には原曲以上の出来栄えでこのアルバムを締めくくってくれているように思う。