個人的な意見では、来生たかおの創作上のピークは2年で4枚のアルバムを発表した1983~84年だが、その後数年もなお勢いを感じさせるものがある。1985年に発表されたアルバム「ONLY YESTERDAY」も、ポール・モーリアプロデュースになる傑作アルバム「LABYRINTH」(1984)と、個人的に来生のアルバム中でトップクラスに位置づけている「I Will…」(1986)に挟まれているだけにいささか地味に感じる時期もあったが、アレンジの完成度の高さではおさおさ劣るものではない。シングルカットされた「はぐれそうな天使」も、車のCMソングとして流れたためもあってそれなりにヒットし、来生の代表曲の1つとされている。

 

このアルバムで注目されるのは、来生の音楽的嗜好が色濃く感じられる点ではないか。アルバムタイトルで思い出されるのは、往年のカーペンターズのヒット曲であるが、ほかに収録曲中でも、「Times Go By」は映画「カサブランカ」でポピュラーになった「As Time Goes By」を明確に連想させるし、「P.S.メモリー」ではビートルズの「P.S.I Love You」の名称が歌詞中に現れる。以前Wikipediaに掲載されていた記述によれば、来生は往年の音楽の方が優れていたという意識を持っているようで、近年の音楽に対しては批判的なところがあるようだ。

 

そういった要因のためか、このアルバム自体、全般的には静かでノスタルジックな印象を受けるところが大きい。上記のようにこのアルバムが地味に感じられたのも、そのような特質があるためなのかもしれない。しかし、このアルバムの時期はまだアレンジにアナログな感触を感じるところも大きく、うっとりとさせられる場面も多い。

 

なお、このアルバムは、LPとCDで収録曲と曲順が異なる。CDが収録時間を長くとれる特性を利用して2曲増やしているが、単純にボーナストラックとして付け足すのではなく、一体化したものとして提供しようという方針には良心的なものを感じるが、当時の趨勢からすればLPがオリジナルの意図した並べ方であろうと思われるので、こんにちその順番で聴くには少し手間がかかるというのは気にならないでもない^^;

 

編曲陣は、矢倉銀名義による来生本人が半数近くで、残りを武部聡志と八木正生が担当している。前回河合その子のアルバムで武部については批判的なことも書いたが^^;、このアルバムにおいてはまだメカニカルな感触も抑えられており、美しく感じられる部分も多い。しかし、たった2曲だけだが、それ以上に八木が優れていると思う。八木は本来ジャズを土台とする人らしいが、このアルバムにおいては、ストリングスを前面に押し出したオーケストラサウンドが基調となっている。

 

このアルバムは、冒頭にオーバーチャと名づけられたインストゥルメンタルが置かれているが、これがまたノスタルジックな気分を掻き立てる曲である。続いて、「Times Go By」。タイトルを除いて「As Time Go By」を連想させるところはないように思うが、オーバーチャの雰囲気を継承したいい曲である。このアルバム中の来生本人のアレンジになる曲ではいちばん好きである。

 

以下、LP版に基づいて書いていく。2曲目「Far Away」も、前曲からの雰囲気を感じさせるタイプの曲である。3曲目「About You」は地味な印象だが、八木アレンジのオーケストラサウンドが美しく、うっとりとさせる。4曲目は表題曲に近い扱いの「Only Yesterday Dream」。タイトルに比して、オプティミスティックな印象を受ける、爽やかな曲である。A面の最後は「風の忘れもの」。ロマンティックで味わい深い佳曲である。個人的には、武部アレンジの曲中で1つ選ぶならこれである。

 

「はぐれそうな天使」は、B面2曲目である。来生によると、当初は別の歌手がうたう予定だったが、決まらなかったため自分で歌うことになったのだという^^; ただ、人選は引き続き行なっていたのか、翌年になって岡村孝子がカバーし、CMソングもそちらに変わっている。次の「P.S.メモリー」は武部アレンジだが美しく、冒頭のノスタルジックな雰囲気に戻ったかのような印象である。なお、CD版では「Far Away」の次、3曲目になっている。

 

次の「緑の正午(まひる)」は、このアルバム中ではアグレッシブな曲で、ラブソングというよりは、来生がときおり見せる都会の風景を描いた曲という印象を受ける。最後の「Wonder Night」は、来生が自作中で最も甘いラブソングと評している曲。これも、八木アレンジのオーケストラサウンドが素晴らしく、ぜひ締めくくりとして聴きたい曲である。あいにく、CD版では中盤、7曲目である。続いて、終曲として、オーバーチャの別アレンジが置かれている。

 

CD版で増補された曲について。「もう少し遠く」は、アレンジ的にみるとこのアルバムにやや不釣り合いな印象を受ける(もっとも、アレンジは来生本人)が、単体で聴くかぎり、割と好きな曲である。その後、「めぞん一刻」エンディングテーマでシングル発売された「あした晴れるか」のカップリング曲とされる。もう1曲はシングル盤「はぐれそうな天使」のカップリング曲だった「夢みる頃を過ぎても」だが、これも単体で聴きたい曲である。CD版では最後の曲とされているが、ちょっとフィナーレには軽い気がする。ちなみに、その後郷ひろみがカバーしているが、一部構成を変更してカットが見られる。