樹齢100年以上の大きなヤマザクラと古い洋館。

そこが キャフェ チェリー・ブラッサム。

支配人の緋桜(ひお)は、季節の和菓子と茶とともに、桜や自然に浸れる空間を提供します。緋桜は、都子、可奈、皐子(こうこ)ら同世代の女性たちとともに悩み互いに支えられながら仕事の意義を見出していきます。ヤマザクラが虫や鳥に支えられながら四季折々の姿を見せるように。

 

緋桜は、キャフェをこんな場所にしたいと、徐々にわかってきたようです。

・忙しい人にこそ、自然を見てほしい。・・・気分が和らいだり頭がリセットできたりする。俯く顔を、いったん上げる勇気に期待する、ような場所に。

・誰かの逃げ場、隠れ場、自分自身を取り戻す場としても存在する、ような場所に。

・知らず知らずのうちに、誰かの力になっているんだよ、といったような存在に。

 

また都子のワークショップは盛況ですが、インスタ映えの写真を撮りたい、とか、セールスの勧誘の場に、といったお客さんがいるようで、都子は頭を悩ませます。悩みぬいた後、「大切な人のためのお花教室」と変更したところ、おばあちゃんのために大学生が、とか、80代の女性が同い年の長年の友達に、とか幸せな気分が満開になります。なんか素晴らしいですね。

 

菓子職人の皐子も成長しています。「ゆっくりでしか辿り着けない場所があるのだ、ということがようやくわかってきた。焦る必要なんてない。時が過ぎるように、自分も成長していけばいい、そう思えるようになってから、納得できる(仕事)が少しずつできるようになってきた」、と。

 

ヤマザクラの生命力や自然の中での営みと、緋桜たちの関わりも同じなんですね。一人では生きていけない。大切な人のため、っていうのがキーワードになるんでしょうか。お料理小説かなと思って読み始めましたが、自然を通して、また人を通して、静かな時間が心地よく流れていくような小説でした。