桶狭間の戦いの前哨戦となる丸根砦・鷲津砦の攻防。丸根砦を堅固に作事しそのまま丸根砦に残り、松平元康軍の攻撃にさらされる礫投げの得意な青年・弥七の成長・生き様が描かれた作品です。

 

陰(ほと)と呼ばれる貧しい集落から外に出て帰るところのない弥七は、日々なんらかの作事に関わって経験を積み、貪欲に知識を吸収し、黒鍬衆(くろくわしゅう)としての技能や経験を身につけていきます。黒鍬衆の作事する砦は「充分に堀など穿ち、落とし穴を掘り、あちこちに細縄を渡しては鳴子などの仕掛けを用意し、どのようにしても半町(約50m)先までしか近寄れぬとのこと」。さらに作事の妨害には弥七の礫隊がつど撃退します。

 

仲間ができ喜びを知り成長し、自信をもって「俺は石ころじゃない、礫の弥七だ」と言えるようになる弥七。名も知られていないニッチな登場人物に光を当てたこの作品、桶狭間の戦いの2刻前で終了しますが、読み切った感がありました。