開店前、誰もいない店内に佇む。
この場所で、開店以来もう、40年近い年月が流れ去ってしまった。
当時私はまだ10歳。
真新しい店を切り盛りしてたのは、
今の私よりも7歳も若かったお袋だった。
それなりに山在り谷在りの歴史があった。
店だけでなく、経営者にも、従業員にも、
その間来てくれた何十人ものパート・バイトの方々にも……。
そして、それこそ延べ百万人近いお客様にも、
この店で数々のドラマが生まれていたかも知れない。
その思い出は、ここにずっと残っている。
そんな心の奥の想いとともに、
小さく古ぼけ、焼肉の臭いが染みついた空間だが、
それを可愛がり、大切に思ってくれている人たちがいる。
そんなことを考えていたら、胸が急にキュンとなってしまった。
──純朴な女の子みたいに。
外は雪がまた降り出している。
風がないせいか、優しく静かに舞い落ちている。
今夜も、どんなお客様が温かな風となり、
思い出に残るドラマを運んで来てくれるのだろうか。
もちろん、ヒーロー、ヒロインはお客様。
私達は盛り立て役に徹して、
美味しさと笑顔を心掛けるだけだ。
でも、上演前の舞台を独り占め出来るのは、
私達だけである。
そして、風が吹き去った祭りの後の寂しさも、
お客様が知ることはない。
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