娘よ。
お前が望む2度目の報告だ。
今日は朝から夕方まで、
世の中の仕組みを少しだけ学んだ。
そして父はこの歳になるまで、
本当に何も知らないでいたことを思い知らされ、
今、激しく打ちのめされている。

お前を叱る時、
何をどう言ったら良いのか、

いつも迷う。
お前が泣くとき、
如何なるもので包んでやればよいのか、

慄き悩む。

娘よ。
大人は皆、知ったか振りをするが、
本当は何も知ってやしない。

どれが正しくて、
何が間違いか、
自分のちっぽけな世界でしか、
判断出来ないでいる。

海が荒れ、

逃れられない波が押し寄せ、

人工の黒い雨が降り、

ようやく気づき始めた。

お前が幸せになれるように、
澄んだ眼で世の中を見渡すと、
海の深く、声の届かぬ暗闇から、

無数の名も知れぬ屍が、
手を差し伸ばされるのを、
じっと黙って待ち侘びているのが見えた。

そこに下りて、身を屈め、
お前の脚元に拡がる世界に、
目映いほどの光の渦を、

昇天の涙と共に打ち上げたい。

そして、父と母の後ろにも、
数えきれない涙の痕跡が、
連綿と続いてるのに眼を懲らせるのだ。


娘よ。

お前が存在する意味が分かるか。

漆黒の闇の中から、

一条の光がお前を貫くのが見えるか。

歩み出せ。

その光の輪に包まれて、

それを再び闇に帰すために。

歩み出せ。


間もなく大人になるお前に、
父としてこれを贈ろう。


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