「タイムリープか」
そう呟いた宮本康平の眼前には映画で観たことのある戦国時代が広がっていた。
映画の主人公とは違い、彼は冷静だった。こうも簡単に時空を飛び越えられる宇宙の不思議さに興奮している方が優ったからだ。まるで旅行で訪れた街を見るかのような目で辺りを一瞥した後、静かに笑った。
「箱根駅伝、見たかったけどな」
ー半年前ー
全国高校総体剣道大会、通称インターハイの表彰式でトロフィーを受け取る宮本康平にさしたる笑顔はなかった。見飽きた光景ゆえに周囲も反応も同じだった。康平は剣道の天才だった。中学の頃から無類の強さを誇り、負けたことがなかった。今年のインターハイも優勝し二連覇。中学生時代の全国大会と合わせて5年連続の日本一だった。
康平が当然感じていた物足りなさは、大人たちでも埋めることはできなかった。もちろん大人相手では勝ったり負けたりであったが、強者と相対せることに喜びを感じるタイプではなかった。
だがある日、今まで言語化されてこなかった康平の本能が、いつも彼を教えている道場の師範へと向けられたのは高一の夏だった。
「真剣でやりませんか?」
師範は最初、意味がわからなかった。だが、すぐに目の前にいる子どもが放ったセリフの助詞が「に」ではなく「で」あったことを確信しハッとなった。康平の視線の先にあったのは、道場の一番見えるところに飾られている二本の刀。それは人間国宝が作った人を殺めることのできる鉄だった。
「物足りないんすよ。こんな竹の遊びじゃ」
初詣の客で賑わう鶴岡八幡宮で、康平は賽銭箱に入れる額に悩んでいた。同じ剣道部員の松永は小学校からの馴染みだ。
松永「なにお願いすんの?」
康平「んー」
松永「いいよな推薦で受かってるやつは」
康平「じゃあ、お前の合格願ってやるよ」
康平が通う桐蔭学園は進学校で生徒のほとんどが大学受験をする。康平はスポーツ推薦で早稲田大学への進学がすでに決まっていたが、言葉にならない疑問を感じていた。それは己の進路が剣道によって決まっていってしまうことへの不安だった。サッカーや野球とは違い、剣道はいわゆる日の食っていけないスポーツだ。そんなものの頂点を大学に入っても目指すことに何になるのだろうと。あの初めて竹刀を持って人と相対した時の感覚のような、心が躍動するような瞬間はもう二度とないのか。そんなことを考えてるうちに、お参りの順番が回ってきた。平成元年の5円玉を投げ入れ鐘を鳴らした後、康平は静かに目を閉じた。
「なんか、つまんねーな」
目を開けると、彼は戦国時代にいた。
つづく




























