町山智浩『第96回アカデミー賞振り返り』& 映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』 | 七梟のブログ

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町山智浩『第96回アカデミー賞振り返り』& 映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』2024.03.12

 

 

『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』
劇場公開日:2024年3月15日
◆若松孝二監督が代表を務めた若松プロダクションの黎明期を描いた映画「止められるか、俺たちを」の続編で、若松監督が名古屋に作ったミニシアター「シネマスコーレ」を舞台に描いた青春群像劇。
前作で脚本を担当した井上淳一が監督・脚本を手がけ、自身の経験をもとに撮りあげた。
監督:井上淳一(誰がために憲法はある、大地を受け継ぐ)
主演:井浦新、東出昌大、芋生悠、杉田雷麟

 

町山智浩『関心領域』と『実録 マリウポリの20日間』のアカデミー賞受賞を語る

町山智浩さんが2024年3月12日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で前日に行われたアカデミー賞授賞式についてトーク。『関心領域』の国際長編映画賞、そして『実録 マリウポリの20日間』の長編ドキュメンタリー映画賞受賞について話していました。

(石山蓮華)そうですよね。WOWOWでのアカデミー賞授賞式特番の解説、お疲れ様でした。町山さん。

(町山智浩)いえいえ。

(石山蓮華)それで先週、ご紹介いただいた『関心領域』、そしてロシアに侵略されたウクライナの最前線を命がけで撮影した『実録 マリウポリの20日間』。こちら、町山さんの予想通り、どちらもオスカーを取りました。
 

「こんな映画、撮りたくなかった。こんな賞は取りたくなかった」

 
(町山智浩)取りましたね。『マリウポリ』の方は命がけで撮影していた監督本人、チェルノフさんがアカデミー賞のステージに登場して。「こんな映画、撮りたくなかった。こんな賞は取りたくなかった」って言っていたのがすごかったですね。要するに「ロシアに攻め込まれなければこんな映画は撮らないで済んだはずだ」っていうね。自分でね、「こんなことを言うのはアカデミー賞史上、初めてでしょう」って言ってましたけど。で、『マリウポリの20日間』はね、今度劇場で正式に映画として、日本でも公開されるそうです。まだ公開日は決まってませんが。

(石山蓮華)これからちょっと、公開された時に見たいと思うんですが。『関心領域』が10日に先行上映っていうのが1日、あって。

(町山智浩)おお、そうなんですか。

(石山蓮華)そのタイミングで私、ちょうど見られたので見てきたんですけど。いや、本当に……怖い映画でした。なんか、そうですね。アウシュビッツの隣にあるお家、豪邸の中の話なんですけど。この無関心が何よりも恐ろしくて強い、大きい力を持ってるんだなっていうのを本当に自分の中からその気づきをグッと掴んで引っ張り出してくれるような。映画としては本当に力強い……淡々としている不思議な感じもあるけど。いい映画でした。
 
(町山智浩)今回、アカデミー賞でね、音響賞取ったんですよ。『関心領域』が。それは映画の最初のところでびっくりすると思うんですけど。

(石山蓮華)びっくりしましたね。

(町山智浩)「ヴヴヴヴヴヴヴ……」っていう音がずっと続いてるんですよ。「なに、この音?」って思うんですけど。映画が始まってからもしばらく、あちこちでこの音は聞こえていて。あれは、ユダヤ人の人を殺した後に焼却する焼却炉の音だっていうことが途中でわかるんですけど。あれ、音の映画なんですよね。

(石山蓮華)本当にその音が……いろんな音が聞こえるんですけど。見終わった後、全く頭から離れずに。ちょっと胃が痛くなりました。

(町山智浩)音ってすごく強く出してね、印象付けるものなんですけど。あの『関心領域』っていうのは低く、ずっと流れてるとか。ちっちゃく聞こえるんですよ。子供の声とかが。ちっちゃい音で恐怖を表現するというね、普通と逆のことをやっていて。だから珍しいですよ。音がちっちゃいってことで音響賞を取るという、非常に珍しい映画になっていましたね。
映画.com on X: "🏆#米アカデミー賞速報🏅 ◤音響賞 ...

(石山蓮華)本当にぜひ、劇場でご覧いただきたい映画だなと思いました。日本での公開は5月24日。
 
(でか美ちゃん)私はちょっと先行上映には行けなかったので。5月すごい楽しみにしてるんですけど。町山さんに教えていただいて。『マリウポリの20日間』の方がYouTubeにアップされている……日本語とかはついてないけれど見れるっていう話があったじゃないですか。で、言葉とかがわからないなりに見てたんですけど。ちょっと本当に正直に言うと、つらすぎて。途中で見るのを止めてしまったんですよ。私は。もしかしたら、日本語でのいろんな説明とかがあれば……だし、やっぱ見なきゃいけないものだけど。途中で離脱してしまうぐらい、あまりにもリアルというか。リアルというか、リアルがリアルを超えてくるようなぐらいひどくて。ちょっと、フィクションじゃない恐ろしさというものがすごかったんで。
 
(町山智浩)そうですね。最初、ロシアに攻め込まれた時には結構、普通に生活してるんですけど。だんだんみんな、もうパニックになってきて。商店を襲ったりし始めるし。必要なものを取るためにね。で、途中からもう、病院に対するミサイル攻撃が始まって。あれ、カメラの人が本当に爆弾が爆発するすぐ横に立っていたりするんですけど。

(でか美ちゃん)そう。ものすごい命がけで撮っていて。

(町山智浩)でもあの人がアカデミーの会場に出てきたんで。「うわっ、生きてる!」と思いましたよ。
10日、米ロサンゼルスで、アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞したビデオジャーナリストのムスティスラフ・チェルノフさん(中央)ら(AFP時事)
(でか美ちゃん)そうそうそう。「よかった!」っていう。作品に出てるってことは、そうだろうなとは思うんですけど。アカデミー賞を見て、その安心感もありつつ。だからやっぱり見なきゃいけない。その、途中で離脱しといてなんだっていう感じですけど。ちゃんと劇場公開されたら、きちんと見に行こうと思いました。
 

今、現在イスラエルとガザで起きていること

 
(町山智浩)よろしくお願いします。でね、『関心領域』の監督がね、アカデミー賞を受賞した時に「これはたしかにホロコーストという第2次世界大戦の時にユダヤ人が殺された話なんですけども。今、大事なのは過去よりも、現在です。現在、イスラエルで何が起こってるか、なんです」ということを言った時もね、結構タブーでね。というのは、やっぱりハリウッドって元々、ユダヤ系の人が作った産業なんで。プロデューサーとか、やっぱりユダヤ系の人多いんですよ。すごく。で、この『関心領域』の監督自身はユダヤ系なんですけれども。しかもウクライナ系ユダヤ人なんですよ。非常に歴史に翻弄された人が撮ったものなんですけれども。だから、あの授賞式でマーク・ラファロさんが赤いバッジをつけてたんですけどね。あれは「ガザ攻撃をすぐ停止せよ」っていうバッジなんですよ。だから、そういう人もいれば……ハリウッドの中でも結構、二つにわかれていて。
 
(町山智浩)すごく今ね、たぶんね、スティーブン・スピルバーグとかはこのガザ問題に対して、どうコメントしようかっていうのでね、すごく苦しんでると思うんですね。彼は前に映画でそのイスラエルのパレスチナに対する攻撃とか、武力行使に関して批判する映画を撮ってるんですね。『ミュンヘン』という映画なんですけれども。これはイスラエルの秘密工作組織が……パレスチナ・ゲリラがミュンヘンでイスラエル選手を殺したんで、その報復でパレスチナの解放運動家の人を1人1人殺していくっていうすごい映画で。これ、実話なんですけれども。で、殺してるうちにだんだん、そのイスラエル人がおかしくなってくるんですよ。「俺は何をしてるんだろう?」っていう。そんな映画を撮ったのがスティーブン・スピルバーグなので。それで彼はハリウッドのキングですから。彼が言うことは非常に重要なんで。今、彼が何を言うか?っていうことにみんな、すごく注目してると思うんですね。
 

町山智浩 ロバート・ダウニー・Jrのアカデミー賞 キー・ホイ・クァン無視問題を語る

 
宇多丸とMs.メラニー アカデミー賞演技部門プレゼンター5人体制の弊害を語る
町山智浩さんが2024年3月12日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で前日に行われたアカデミー賞授賞式についてトーク。助演男優賞を受賞したロバート・ダウニー・Jrがプレゼンターで前年の受賞者であるキー・ホイ・クァンをほぼ無視するような形でオスカー像を受け取った態度が問題視されている件について、話していました。

(町山智浩)で、その『関心領域』っていう問題で。今回、アカデミー賞の授賞式で非常に大きい問題なっていて。今、世界中で話題になってるのが『オッペンハイマー』のロバート・ダウニー・Jrが助演男優賞でオスカーを取ったんですけども。その時に前年のオスカー受賞者であるキー・ホイ・クァンさん。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の彼がオスカー像を渡す時、彼の方を見ないで。いきなりオスカー像をロバート・ダウニー・Jrが取って。他のプレゼンターだったティム・ロビンスとか、歴代の受賞者の方に挨拶に行ったっていうことで。クァンさんは中国系ベトナム系アメリカ人なんですけども……まあ、ほとんど無視に近い形だったという。で、「これはいったいどういうことなんだ?」っていうことで今、いろいろと批判されてるんですが。
 
で、僕がこれをすごく大きな問題だなと思うのは『オッペンハイマー』という映画はですね、ロバート・ダウニー・Jr扮するストロールという男がオッペンハイマーに無視されたことで、それを恨みに思ってオッペンハイマーに復讐する話なんですよ。

(石山蓮華)へー!
 

オッペンハイマーに無視された男を演じて助演男優賞を受賞

アカデミー賞速報】助演男優賞を「オッペンハイマー」ロバート ...
(町山智浩)その映画でロバート・ダウニー・Jrはアカデミー賞を取ったのに……それはちょっと、どうなの?って思っていて。で、オッペンハイマーっていう人は原爆を開発した物理学者で、天才なんですけれども。ちょっとなんというか、問題がある人で。夢中になると、それに夢中でガーッとなるんですけど。自分が「この人は関係ないな」と思った人を無視しちゃうんですよ。で、それがどのくらいひどいか?っていうと、自分の弟が婚約者の女性を紹介するんですね。それで「兄貴。これから彼女と結婚するんだよ」って言うと、普通は「おめでとう。よかったね! いい嫁さんだね!」とかって言うじゃないですか。でもオッペンハイマーは言わないで。「ああ、そう」ってパッと無視して違うところに行くんですよ。

で、その婚約者の女性は「なに、この人?」っていうことで、パニックになるんですけど。そういうことをあちこちで繰り返してるうちに、そのアインシュタイン博士。原爆のきっかけにもなった発見をした人とオッペンハイマーが会う時に、彼らを会わせたのがこのロバート・ダウニー・Jrが扮するストロールという人なんですけども。彼らを会わせたのに、ロバート・ダウニー・Jrのことを無視してオッペンハイマーはアインシュタインと仲良く話し始めるんですよ。で、「また無視された!」っていうことで。「オッペンハイマー、許せない!」っていうことでロバート・ダウニー・Jr扮するストロールという男は「オッペンハイマーはソ連のスパイだ」という濡れ衣を着せていくっていうドラマが『オッペンハイマー』という映画なんですよ。

(石山蓮華)はー!
 
(町山智浩)だから悪気がない人。悪気がないんだけれども関心領域が狭い人っているわけですよ。で、その関心領域の外にある人にはもう本当に無視するということをした時に、それをされた方は覚えているっていう。それでものすごく傷ついてるというような映画で彼はアカデミー賞を取っているんだから……。

(でか美ちゃん)そうですよね。

(町山智浩)「おいおいおい……」っていうね。
 
(石山蓮華)ずっと、その役を通していろんなことを考えて、感じてきたんじゃないかって……。

(町山智浩)そのはずなんですよ。
 

役を通していろんなことを感じてきたのではないのか?

(でか美ちゃん)でもね、あの行動が結構、話題になってるじゃないですか。特にやっぱり日本は同じアジア系として、いろんな思いもあったりしますけど。わざとやってたとしたら、もちろん最悪だし。なんだろうな。「アジア系の人」みたいな大きなくくりで見て、なんか透明に見えてるんだとしたら、それも本当に最悪じゃないですか。悪気はなかったとしても。

(町山智浩)そう。だからとにかくね、今回のロバート・ダウニー・Jrも……本当にあの人は名優ですけれども。今回はね、その彼が演じた役と比較するとまずいだろうというところがあるんですね。
 

町山智浩『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』を語る

『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』予告編 3月15日テアトル新宿ほか全国ロードショー

 

青春ジャック 止められるか、俺たちを2』公式サイト

町山智浩さんが2024年3月12日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』について話していました。

(町山智浩)僕、あのアカデミー賞の授賞式の中継の時に滝田洋二郎監督と一緒にお話をしていたんですよ。もちろん中島健人くんもいましたよ。で、滝田洋二郎監督はアカデミー賞が昔、外国映画賞と言われていた時に『おくりびと』という映画でオスカーを受賞した人なんで呼ばれたんですね。今回は『ゴジラ』の山崎貴監督と宮﨑駿監督が取るかもしれなかったんでね。で、滝田監督と話していたんですが。滝田監督ってピンク映画というものから始まった人なんですけど。だからその話をしたんですよ。昔、ピンク映画というものがあったんですね。70年代……まあ、今もありますが。それは、いわゆるエロ映画、ポルノなんですけれども。独立プロが作った低予算のポルノで。日活というところが作ってた大予算のポルノをロマンポルノと言ったんですね。で、ピンク映画の方はエロ映画に見せかけて、全然違うことをやる映画だったんですよ。

(石山蓮華)へー! そうなんですか。

(町山智浩)ほとんどエロシーンがなかったりするんですよ。

 

(でか美ちゃん)それはちょっと、客寄せ的な要素みたいな?

(町山智浩)そうなんですよ。それで自分たちのやりたいことをやるっていうのをみんな、やっていて。金子修介監督……あっ、金子修介監督の『ゴールド・ボーイ』、ご覧なってます?
岡田将生主演×金子修介監督『ゴールド・ボーイ』黒木華・松井 ...
(石山蓮華)私は結局、まだ見てないんです。

(でか美ちゃん)私もまだ見れていなくて。

(町山智浩)『ゴールド・ボーイ』、これ、すごいですよ。

(でか美ちゃん)だって作家さんが「行ってきたよ!」って言っていて。「何も話せないけど、絶対行った方がいいよ!」と言ってたんで。近々、絶対に見に行こうと思います。

(町山智浩)本当に映画評論家殺しでね。『ゴールド・ボーイ』は何を話してもね、映画を殺しちゃうんですよ。

 
(でか美ちゃん)じゃあもう、自分の足で行くしかない!

(町山智浩)そうなんです。見た人はみんなね、「これ、面白いけど誰にも言えねえや」っていう映画なんですよ。

(でか美ちゃん)気になる!

(町山智浩)もう、これは見てもらうしかないすけど。劇場公開中ですからね。で、『ゴールド・ボーイ』の監督の金子修介監督もポルノ出身なんですね。で、彼は何をやってたか?っていうと、ポルノに見せかけた少女漫画をやってた人なんです。『エースをねらえ!』とかをポルノでやってた人なんですよね。

(でか美ちゃん)へー!

(町山智浩)そういうやれる……まあ「やれる」っていうか、要するに映画が撮りにくくなってきたから、エロで人を寄せておいて好き勝手なことをやるという。それで滝田洋二郎は『痴漢電車』シリーズというのをずっと撮っていたんですけど。痴漢電車、中身は全然関係ないんすよ。たとえばね、『痴漢電車 極秘本番』っていうタイトルの映画がありまして。これ、アマプラで見れるんですが。これは戦国時代から現代にタイムスリップしてきた忍者・猿飛佐助の話なんですよ。

(石山・でか美)ええっ?
 
(でか美ちゃん)全然、痴漢も電車も出てこない?

(石山蓮華)猿飛佐助と電車って……。

(町山智浩)もうエロも何も関係ないんですよ。で、そういう映画をやりたくてやっていて。滝田監督はとにかくね、ミステリー物が好きで。密室ミステリーとかですね、そういうのばっかりやっていて。エロ関係ないじゃんっていう映画を撮ってたんですけど。その頃の話を描いた映画がちょっと今週15日から公開される映画で。『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』というタイトルの映画なんですね。
 
で、『止められるか、俺たちを1』という映画がありまして。それはですね、若松孝二さんという監督がいて。彼がやっていた若松プロの70年代の話なんですね。で、その若松プロというのはとんでもない映画会社、映画プロダクションで。たとえば『テロルの季節』っていう映画があるんですが。もう、はっきり言ってテロの映画なんですよ。これは日米安保条約を結ぶためにアメリカに行こうとする総理大臣を爆殺するために体に爆弾を巻いて羽田空港に特攻するテロリストの映画なんですが。ただ、映画としてはピンク映画として公開されていて。そういうことをやっていた人なんですよ。だから非常に政治的に過激な映画でも、エロ映画として公開すれば気がつかれない。
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(でか美ちゃん)伝えたいものがある人ほど、ちょっとそういうオブラートに包むじゃないですけど。

(町山智浩)そう。偽装をするんですよ。そういうことをやってた監督は若松孝二監督で。この人はだから、それこそさっきの話ですけども。イスラエルでパレスチナ人たちが弾圧されてるってことで、パレスチナまで行ってます。で、足立監督という人と一緒に行って。足立さんはそのままパレスチナゲリラに合流するということになっちゃって。すごい、とんでもないことをやってる人なんですけども。ところが、この若松孝二監督も80年代になるとビデオの時代になりましてですね。映画の観客が減っていっちゃうんですね。で、若松孝二監督のスタッフだった秋山道男さんなんてね、チェッカーズをプロデュースして大儲けしたりしているんですよ。その当時に。
 
(石山蓮華)ガラッと変えたんですね。

(町山智浩)ガラッと変えちゃうんですけども。で、その1980年代のビデオ時代に映画の観客が減っていくから、若松孝二監督は自分の映画を人に見せるために……彼の映画はなかなかビデオ化されないんですね。なので、自分で映画館を経営しようとする話なんですよ。で、名古屋でシネマスコーレという映画館を彼がオープンするんですが。その映画館の館主として雇われるのが東出さんです。

(石山・でか美)おおーっ!
 

若松孝二監督が映画館をオープン

 
(町山智浩)東出さんがですね、その映画版を経営することになるんですが、なかなかお客さんが来ないで苦しむという話なんですが。実はこの映画にはもうひとつ、ポイントがあってですね。この映画の監督・脚本をした人は井上淳一さんっていう人なんですね。この井上淳一さんがどうして映画監督になったか?っていう話でもあるんですよ。

(石山蓮華)じゃあ、自伝的な映画なんですか?

(町山智浩)自伝的な映画です。で、井上淳一さんがどういう映画を最近作ったかというと、安倍総理暗殺犯を描いた映画『REVOLUTION+1』の脚本です。
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(でか美ちゃん)いろんな意味でね話題になってましたけど。

(町山智浩)で、その次は関東大震災で朝鮮人虐殺があったんですが。朝鮮人だと思われて、虐殺された被差別部落の人たちの物語『福田村事件』の脚本家です。この2本を聞いたら「若松プロ魂!」って映画ファンは思うんですよ。そういうタブーに突っ込んでいく映画作家たちの集まりだったんですね。若松プロというのは。で、その井上淳一さんが予備校に通っていた頃の話なんですね。これは。
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(石山蓮華)若い頃の話ってことですね?
 

若き日の井上淳一監督

 
(町山智浩)名古屋にね、河合塾っていう予備校がありまして。そこに通ってたのが若き井上さんで。だから18ぐらいですかね? で、何をしたらいいかわからない。そこで、そのシネマスコールで東出さんが客引きをやってるところに行くわけですよ。で、その70年代の非常に過激な映画を見るわけですよ。「なんだ! こんなものを映画として撮っていいのか!」と思うわけですよ。で、若松さんところに弟子入りしてですね、助監督等を始めるという青春物になってるんですよ。
 
(石山蓮華)へー! 結構若い時代の話じゃないですか。じゃあ『1』は何をやってたんですか? すごい気になるんですけど。

(町山智浩)『1』は井上さんは出てこないんですよ。

(石山蓮華)なるほど。主人公が変わるってことなんですか?

(町山智浩)主人公は女性の若松プロのスタッフだったんですけど。まあ、その人は亡くなってしまうんですよね。実際にその人は。門脇麦さんが主演だったんですね。前回の70年代版は。で、それを知らない井上さんが予備校生としてその若松プロの過激な世界を知って、それに吸い込まれていったという彼自身の物語です。

(でか美ちゃん)連続性というか。もちろん関連はあるけど。『2』だけを見ても楽しめるような感じなんですね?
 
(町山智浩)そうです。『2』だけ見ても大丈夫です。で、『1』も『2』も共通するのは、その若い人たちが映画というものに触れて。「映画はこんなに勝手放題なことをやっていいのか!」って驚いて、その中に吸い込まれていくっていう物語は共通してるんですけども。で、この若松孝二さんを演じるのは井浦新さんなんですよ。いつもは非常にハンサムで優しい2枚目の役を演じている井浦さんが、ここでは非常に暴力的な、東北弁の荒々しい若松孝二さんを見事に演じてますね。

(石山蓮華)ああ、井浦新さんがこのポスターのメインビジュアルにいらっしゃるの、一瞬気がつかなかったですね。

(でか美ちゃん)ティアドロップ型のサングラスに柄シャツを着てね。全然イメージじゃない感じで。

(町山智浩)これが若松監督なんですよ。若松監督はね、前作も今作も同じことをしてるんですね。で、「映画、何を作ったらいいか、わからない」とか言ってる若者に対して。「何をしたらいいか、わからない」っていう人に対してまず、言うんですよ。「おめさ、誰か殺したくないか?」って言うんですよ。

(でか美ちゃん)すごい言葉だな!
 
(町山智浩)すごいことを言うんですよ。「もし殺したい奴がいるなら、やれ! 映画の中で。映画の中なら何をしても、絶対に捕まらねえ」って言うんですよ。まあ若松さんはポルノで捕まったり。『愛のコリーダ』で捕まったりしてますけど。

(でか美ちゃん)捕まってはいるんだけれども(笑)。

(町山智浩)ところがですね、それがまたプレッシャーなんですよ。井上くんは80年代の恵まれて育ったええとこのボンボンなんですね。勉強もできるしね。ある程度。何の怒りもないんですよ。「そう言われても、何も怒りがない」っていうことが、彼の苦しみなんですよ。彼が怒りを見つけなきゃなんないんですよ。で、そう言ってるうちに、なんと自分が通ってる予備校・河合塾のために映画を作ることになるという話なんですよ。

(でか美ちゃん)すごい話だな。一番、それがドラマじゃないかって思いますけどね。

(町山智浩)そうなんです。今回、それがドラマだからそれを映画にしているんですけども。でもね、そういう「怒りがどこに向かったらいいか、わからない」っていうのはね、80年代はみんな豊かで。逆に今はみんな、非常に貧しくなっていて。やっぱり怒りはあると思うんですけれども。それをどうしたらいいかということで、現代にも通じる、見るべき映画だと思いますんで。この映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』、もう本当にぜひ見ていただきたいと思います。

(石山蓮華)ということで今日は今週15日、金曜日に公開になる『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』をご紹介いただきました。
 
青春ジャック 止められるか、俺たちを2』公式サイト