映画『カラーパープル』本予告 2024年2月9日(金)公開
(町山智浩)今日、ご紹介する『カラーパープル』っていう映画も『哀れなるものたち』とちょっと似ているところがある話です。
Mysterious Ways
(町山智浩)これ、最初のところは「ワークソング」という、アメリカの黒人の奴隷が働く時の歌なんですよ。で、途中からゴスペルのダンサブルなところに突入していくんですけど。これ、ミュージカル映画ですね。『カラーパープル』というのは1982年にアリス・ウォーカーという黒人の女性作家が書いた小説で。20世紀前半のアメリカの南部の黒人の歴史を女性の視点から描いた名作なんですけど。これ、1985年にスティーブン・スピルバーグが映画化して、それも名作なんですが。その後、2005年に今、聞いてる曲のような感じでブロードウェイでミュージカル化されて。それが大ヒットして。今回、映画として公開されるのはそのミュージカルの映画版なんですね。ただね、これ曲を聞いててもわかる通り、スピルバーグよりも楽しいです。
(でか美ちゃん)すごいハッピーな感じですね。
町山智浩さんが2024年1月30日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『カラーパープル』について話していました。
町山智浩 映画『カラーパープル』2024.01.30
『カラーパープル』(原題:The Color Purple)
劇場公開日:2024年2月9日
◆巨匠スティーブン・スピルバーグが1985年に手がけた名作映画「カラーパープル」をミュージカル映画としてリメイク。
ピュリッツァー賞を受賞したアリス・ウォーカーの同名小説と、ブロードウェイでロングランヒットを記録したミュージカル版をもとに再映画化する。
監督:ブリッツ・バザウーレ
主演:ファンテイジア・バリーノ、タラジ・P・ヘンソン、ハリー・ベイリー
ブロードウェイミュージカルを映画化
で、そういうどん底のどん底から始まって。しかもですね、彼女を守ってくれるはずのお母さんは既に死んでいて。唯一、ネティちゃんという妹だけが彼女を助けてくれるんですけど。主人公のセリーを。でも、そのネティもどこかに行かざるを得なくなっちゃうんです。はっきり言うと、父親に犯されそうになるからですけど。で、逃げ出しちゃうんですね。で、セリーは1人っきりになっちゃうんですよ。それでこの主人公セリーのところにアルバートという男が来て。「嫁がほしいんで、売ってくれ」って言われて、父親に売られちゃうんですよ。このアルバートっておっさんにね。
ところが、そのアルバートっていうのはひどい男で。最初にセリーにこう言うんですよ。「お前は黒人で、貧乏で、女で、学もない。しかも顔も不細工だ。お前には何もないんだ。お前は何もできないんだ」って言うんですよ。完全に「ゼロだ」と言われるんですね。で、もう毎日毎日、夫のアルバートから殴られながら、黙って家事をして。で、アルバートの連れ子3人を育てて。だからセックス付きの奴隷として扱われるんですよ。で、もう愛もないし、希望も救いもない毎日がずっと続くんですね。で、今かかってる曲が本当にワークソングという、黒人たちがきつい労働をしながら歌う歌なんですけども。
Workin’
(町山智浩)ところがですね、そこからセリーは次々と自分よりも世代が若い女性たちに出会っていって。彼女たちの自由さによって、少しずつ解放されていくっていう物語なんですよ。だからね、最初は本当にどん底のどん底ですよ。話は。でもね、どんどんどんどん上がっていくというね、ものすごい高揚感のある映画ですね。で、このミュージカル版はブロードウェイで作られたんで、今回ブロードウェイでミュージカルを演じていた人たちが映画版でもその役を演じてます。で、そのセリー役の人はですね、ファンテイジアという歌手の人ですね。ファンテイジア・バリーノっていう人で。この人もね、ものすごい貧乏のどん底から『アメリカン・アイドル』っていう番組があるんですけど。勝ち抜きでスターになる番組ね。それでスターになった人で。本当にどん底からスターへの道をたどって。その自伝小説まで映画がされるという人が主役を演じていて。ぴったりなんですけどね。あとね、妹はハリー・ベイリーという、ディズニーの『リトル・マーメイド』の実写版のヒロインを演じてた人ですね。
(でか美ちゃん)めっちゃ話題になりましたよね。
(町山智浩)そうなんです。「黒人に人魚姫やらせていいのか?」みたいな話になったんですけど。彼女が妹役で。あと、ソフィアっていう女性が出てくるんですけど。途中から。この人はダニエル・ブルックスさんって人が舞台版も演じていて、こっちでも演じていて。この人、すごい演技なんで。今回、アカデミー賞の助演女優賞候補になってますね。このね、ソフィアっていう人がすごい人でね。主人公セリーが10年ぐらい子育てをして、連れ子の1人がですね、結婚するその嫁さんなんですよ。だから自分の息子の嫁に当たるんですけども。で、このソフィアという人がですね、「絶対に男に殴らせない」っていう女性なんですよ。逆に、その自分に手を出した男をぶん殴る。しかもぶん殴るだけじゃなくて、10倍ぐらいの力で殴って、相手を気絶させるという。ノックアウトしちゃうっていう。
(でか美ちゃん)物理的に強いパターンなんですね(笑)。
(町山智浩)物理的に強い、志穂美悦子系と言われてますね。そういう人でね。で、彼女がね、教えてくれるんですよ。「男に絶対、殴らせたらダメだ。手を上げたらそこで『No!』と言いなさい」と。で、その時に「Hell No!」って言うんですね。「Hell No!」っていうのは「絶対に嫌なこった!」っていうことなんですよ。「それを言いなさい」って言うんですね。
Hell No!
(町山智浩)今、流れている歌が『Hell No!』という歌です。
(でか美ちゃん)すごい意志を感じる歌い出し。「Never Never Never Never♪」って。「絶対、絶対、絶対、絶対!」って言っていましたもんね(笑)。
(町山智浩)そうそう。で、ものすごいこぶしが効いてるんですよ。「ウワーッ!」っていう歌い方ですけども。これで彼女がですね、「絶対にNoと言うのよ!」って言うんですけども。でも、主人公のセリーはそれまでの人生の中で1回も「No」と言ったことがないんですよ。
(石山蓮華)そうか。言えない環境にいましたもんね。
(でか美ちゃん)「言っていい」とも思えなかったのかな?(曲を聞いて)ああ、「Hell No!」って言っていますね。
はじめて「No」ということを知る
だからね、ロックンロールも……前も話したと思うんですけど。あれは元々、黒人の女性が作ったんですよね。「チャック・ベリーが作った」って言われてるんですけども、その前に実は先に女性が作っていて。だからね、現代の音楽の形のほとんどを黒人の人が作ってるんですけど。それはね、作らざるを得なかったんだな。歌わざるを得なかったんだなというのが非常によくわかる映画ですね。元はミュージカルじゃないのに、ミュージカルにすることでそういうアメリカの黒人音楽の歴史までわかるようになっているという。でね、そのソフィアによって初めてNoということを知ったセリーですけど、あともう1人の女性に会うんですけども。それはね、なんと夫のアルバートの愛人なんですよ。
(でか美ちゃん)おおー。
ところが、コルセットを取っちゃったんですね。1920年代の女性たちは。で、それだけじゃなくて、ブラジャーも取っちゃったんですよ。だから、ジャズエイジの服っておっぱいのところはぺったんこなんですよ。それはどういうことか?っていうと女の人の体のボン、キュッ、ボンみたいなのって、男の欲望であって。でも女性たちは「私たち、それは大変だから嫌だよ」っていう風に主張をするんですよ。それだけじゃなくて、髪の毛も短く切っちゃうんですよ。その髪の毛を一生懸命、整えたりするっていうのは男のためにやってるわけじゃないすか?
(でか美ちゃん)当時はね。
(石山蓮華)そうですね。リンクするところがすごいあるなと思いながら聞いてましたね。
(町山智浩)これはとうとう、今まで自分を奴隷として使っていた夫に対して、「あんたなんかいらないわ!」って言う歌なんですよ。
(石山蓮華)宣言するんですね。
(町山智浩)そうなんです。で、夫は「お前には何もない」って言ってきたわけですよね。「そうじゃない! 私には何でもあるわ!」って言い返してる歌なんです。「あんたなんかいらない! 私にはシスターがいるから」って言うんですよ。「女性の仲間たちがいるのよ。あんたがどう言おうと、私は私自身になるんだから。私は美しいのよ!」って歌うんですよ。だからこれ、最初に徹底的に全否定された女性が、40年ぐらいかかるんですけど。
40年かけて、自己を肯定するに至る
(石山蓮華)これは公開されたら、すごい話題になりますね? 間違いなくね。
(でか美ちゃん)テーマがやっぱりね、こういうテーマというか、物語だけど。ミュージカル映画だから、見やすそうですよね。
(町山智浩)そうです。楽しいんですよね。この映画はね、白人がほとんど出てこないんですよ。で、日本ではそんなに知られてる人が出てないんで、すごく劇場で公開することすらないことも多いんですよね。黒人の人たちの映画っていうのは、日本では。ただ、これはそういうものを超えてるので。それこそ、女性であること以上に、「人間とは何か?」っていう映画にもなってますから。ぜひ、ご覧いただきたいと思います。
(石山蓮華)今日は来週、2月9日公開の映画『カラーパープル』をご紹介いただきました。町山さん、ありがとうございました。
(町山智浩)どうもでした。
映画『カラーパープル』特別映像(ライフライン)2024年2月9日(金)公開
本年度アカデミー賞ノミネート!きっと見つけてみせる。私が輝く場所を―!
世界を驚かせたスティーブン・スピルバーグ監督による“伝説の名作”、第58回アカデミー賞®10部門11ノミネート『カラーパープル』が、圧巻のミュージカルとしてスクリーンによみがえる!
監督:ブリッツ・バザウレ 原作:アリス・ウォーカー
出演:ファンテイジア・バリーノ、タラジ・P・ヘンソン、ダニエル・ブルックス、コールマン・ドミンゴ、コーリー・ホーキンズ、H.E.R.、ハリー・ベイリー他