1月5日(金)公開 『コンクリート・ユートピア』|本編映像 “部外者”
(町山智浩)それでですね、今日は3本、一気に紹介しようと思ってんですけども。1本はですね、韓国映画で『コンクリート・ユートピア』という映画なんですが。これは1月5日からもう既に公開中なんですが。これ、大震災についての映画なんですよ。だからもう、映画会社の人は「うわっ、これは困った」って思ってると思うんですね。ただ、この映画のポイントは「地震よりも怖いものがある」っていう話なんですよ。これはですね、もう街が震災で完全に壊滅してしまって。何もかもが倒壊するんですが。ひとつだけ、ちょっとちょっと高級な高層住宅。そこだけが無傷で残るんですね。
で、そこに住んでいた住民がですね、他が全部倒壊してるんで。他で住むところを失っちゃった人たちを助けたりしてるんですけども。ただ、救援が一切来ないんですね。どうも政府も完全に崩壊してるみたいで。だからもう、限られた物資だけで生活しなきゃならなくなるんです。その時に、住民以外の人を追い出そうとし始めるんですよ。限られた施設を……自分たちが分譲で買ったものらしいんですよ。マンションでね。
(石山蓮華)ああ、そうか。「自分のところだぞ」っていう感じになっちゃうのか。
(町山智浩)そうそう。それでね、自警団を結成して、建物に入ろうとする人たちを狩りたてる。それだけじゃなくて、住民の中にも「かわいそうだから助けてあげよう」っていう人もいて。こっそり、匿ったりするんですよ。何人か、被災者の人たちを。すると、それを探し出して。その被災者を匿った人たちを裏切り者として処刑していくという……。
(石山蓮華)ええっ?
(町山智浩)これ、すごい怖い話で。震災そのものより怖いことが起こっていくんですね。で、これはパク・ソジュンさんというね、『梨泰院クラス』で人気のイケメンさんが出てるんですけれども。彼は最初は非常に真面目で、人に同情して優しくしてるんですけども。だんだん、その自警団に巻き込まれていくんですよ。彼にはすごいかわいい奥さんがいるんで。「奥さんのために」と思って、だんだん恐ろしい自警団に入り込んでいくという。最初は「これは間違ってる!」と思ってるんだけども。そのへんの怖さを描いていて。非常に心理的に怖いホラー映画みたいなとこあるんですけども。
町山智浩さんが2024年1月9日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『コンクリート・ユートピア』『被害者が容疑者となるとき』『ガザ 素顔の日常』を紹介していました。
町山智浩 映画『コンクリート・ユートピア』『被害者が容疑者となるとき』『ガザ 素顔の日常』
『コンクリート・ユートピア』(原題:Concrete Utopia)
劇場公開日:2024年1月5日
◆大災害により荒廃した韓国・ソウルを舞台に、崩落を免れたマンションに集まった生存者たちの争いを描いたパニックスリラー。
監督:オム・テファ(隠された時間)
主演:イ・ビョンホン、パク・ソジュン
『被害者が容疑者となるとき』(原題:Victim/Suspect)
Netflix配信開始日:2023年5月23日
◆なぜ被害者が罪に問われるのか。エミー賞受賞ジャーナリストのレイチェル・デレオンが、数々の性的暴行事件の実態を調査する。
監督:ナンシー・シュワルツマン
『ガザ 素顔の日常』(原題:Gaza)
劇場公開日:2022年7月2日
◆「天井のない監獄」とも呼ばれるパレスチナ・ガザ地区の知られざる日常を捉えたドキュメンタリー。平和と普通の生活を夢見ながら、日常を強く生きようとする人々の姿を映し出す。
監督:ガリー・キーン、アンドリュー・マコーネル
SNSで拡散する大量のデマ問題
それでなんでそんなツイートをするんだ?っていうね。これね、一種のSF映画なんですけど。この『コンクリート・ユートピア』っていう作品は。でも、本当にリアルタイムで起こっていることなんで。そういう自警団行為みたいなことを掲げる人たちがいて。本当に危険なんで。これをぜひ見ていただいて。「本当に怖いのは人間です」っていうね。
(石山蓮華)危険だし、悪意がないからな……。
(町山智浩)そうなんですよ。自分は正義をやっていると思ってるんですよ。その自警団の人っていうのはね。それもまた怖いというね。
(石山蓮華)ちょっとこれ、注意点としてなんですが。『コンクリート・ユートピア』は架空の物語ではあるんですが。災害により地盤隆起や建物倒壊の描写があるので、あらかじめご覧の際はご了承いただきますようお願いします。
イ・ビョンホン×パク・ソジュン×パク・ボヨン『コンクリート・ユートピア』予告編
![被害者が容疑者となるとき - 映画情報・レビュー・評価 ...](https://msp.c.yimg.jp/images/v2/FUTi93tXq405grZVGgDqG7jorgZkrK4TxVM4yE2e0RLHreHgzP1MqFFPSsOsOwBPrj0PxnpQPsuFkzsSgyv1Gnktckhb3QE8XH9EbJsCTfKpBWoHCmv29AJO610maK8-EML_58Jsi3NbsHUFjHCaPyVry54M-_lCx7mPI1qJrL7kgE1-hMDwWNVPUvGBkyvfd0XRgvS1dkUzsTp1yDMALLG5wiNi0X_klbh_-ansvMkz5qgHYCScsK8DIewMFA_eoh9REhnfMjyQWE2Wldq8TEiQz-8KakEqESNVC5l6Lto-p-pwQpk2Eg619hqeEERzt0guuzsFinQ9EGMN4z2PecRGIxHGSbVZeN9ZTMUK9TRx2hO0y4EublmJUWudLr0_frHW7s8TeEWPW1CX056crQ==/107786_.jpg?errorImage=false)
次に紹介する映画は『被害者が容疑者となるとき』というアメリカのドキュメンタリー作品で。これはアメリカの話なんですけど。なぜ、性的被害を受けた人が警察に行けないのか? 行っても意味がないのか?ってことはよくわかる作品なんですね。要するに、性的な被害を受けた人の場合、警察に行っても多くの場合、警察は被害者の訴えを取り下げさせちゃうんですよ。で、どういった形でそれが起きているのか?っていうことを、アメリカの調査ジャーナリズムの人たちが調べて。そうすると恐ろしいことに、性的な被害を受けた人たちが逆に虚偽告訴罪で訴えられて。そして下手をすると有罪になってしまうというケースがものすごい数、あるということがわかったんですね。
(でか美ちゃん)それで『被害者が容疑者となるとき』ってことなのか。
性被害を訴えた被害者への取り調べビデオを検証
(町山智浩)どうしてそうなっちゃうのか? ねえ。で、警察はどんどんそうやって「あなたが悪いんだ」っていう方向にしていくんですね。「悲鳴をあげなかったお前が悪い」「そこに行ったのが悪い」「逃げてなかったのが悪い」「抵抗が弱かった」とかね。そんなことを被害者に対してずっと言っているんですよ。そうすると、そのうちに被害者は「すいません」って謝るんですよ。でも、なんで謝るの?
(石山蓮華)だって、警察に被害を訴えてその結果、自分が責められるとは思わないですもんね。
(でか美ちゃん)助けを求めているんだからね。
(町山智浩)そうなんですよ。これは恐ろしい映画で。この映画に出てくるのは全部、本当の取調室での模様のテープなんですね。で、ずっと調べていくうちに本当に有罪になって。禁固刑を受けたりしてる人までいるんですよ。女性で。
(石山蓮華)ええっ!?
(町山智浩)ただね、これはアメリカだから取り調べのビデオというものが存在するんですけど。日本はそんなビデオ、ないんですよ。だから、日本はもっとひどいことが起こっているかもしれない。でも、わからないんですよ。もう、これはわからない。でも、よく考えると警察に来たから、要するに「合意があったか、なかったか?」が争点になるんで。それは「どのぐらい抵抗したんだ?」っていうのをやりますよね? でも、実際には女性の方は抵抗ができないわけですよね。状況的にも、体力的にもね。で、「抵抗しなければ合意していた」ってされちゃうんだったら、これは警察に行ってもムダですよね。だから、警察に行かないですよ。
(石山蓮華)性被害を受けた人がどういう気持ちの動きになって。なぜ、ちゃんと抵抗できないのか。そしてなぜ2次被害に遭うのか。そういう流れって、ちゃんと1冊本を読めば、もうたくさん書いてあることなのにそれがまだまだ知られてないなというのは私も感じます。
(でか美ちゃん)そうですね。なにが真実かなんて、わからないから。今、いろんなことが……「活動を休止します」であったりとか、いろんな記事を出し合ってたりするわけじゃないですか。週刊誌同士でも。なんか、そもそも擁護も批判もわかるまで、しなきゃいいって私は思うんですけど。その「加害をしてたんだろう」って断定するのも今の段階では違うなって思うし。だからと言って「被害を受けました」って言ってる方に「お前、金目当てだろう? 8年前のことを今さら……」みたいな、セカンドレイプみたいなことを言うのも絶対に違うなって思うから。あまりにも、なんだろうな? なんかみんながワーッとやりすぎて、問題がずれてきてるのが嫌ですよね。これって、アメリカのドキュメンタリーですけど。「こういうこともあるんだ」っていうのを知りさえしてたら、自分の心の中で「どっちが本当なんだろう?」っていう風に思っちゃう人間の心はあるけど。でも、口には出ないと思うんだよなっていうのはすごい思いましたね。
(でか美ちゃん)なんか追い詰めていくと心が折れちゃうというのは想像ができるじゃないですか。普通の感覚で考えたら。でもやっぱり「お前、『はい』って言ったじゃないか!」って言われたらおしまいというかね。
取り調べビデオがない日本では……?
(町山智浩)これも映ってるんですよ。ちゃんと。するとね、その容疑者の人が呼び出されるじゃないか。すると警察はね、全く態度が違って。「いやー、忙しいところをすいませんね」って言うんですよ。
(でか美ちゃん)ええっ? なんで?
(町山智浩)「おたくも大変ですね」とか言うんですよ。
(でか美ちゃん)それは、作戦的にそういうのがあるからなのか……その方がポロッとしゃべっちゃうからとかなのか。もうそもそも、ちょっとそっち側に立ってあげちゃってるのか。
(町山智浩)でしょうね。おそらくね。
(でか美ちゃん)そうですよね。本当にガツンと追求されるべきは、第1段階では容疑者側なわけじゃないですか。本来は。
Victim/Suspect | Official Trailer | Netflix
(町山智浩)最後に紹介するのはこれ、日本の映画館でシアターイメージフォーラムとか、田端のCINEMA Chupki TABATAとかで上映中の『ガザ 素顔の日常』という映画なんですが。これはアイルランドの映画監督がガザで2019年かな? 最近、撮影したドキュメンタリーなんですが。今、ガザにイスラエルによるものすごい爆撃、攻撃が続いてるんですが。ガザというのはイスラエルの中にあるパレスチナ人が住んでいる、海岸沿いのすごい狭いところなんですよ。東京の都心部よりもちょっとちっちゃいぐらいなんだけど。そこに200万人以上住んでるところなんですけども。10月にそこを支配しているハマスという過激派集団がイスラエルに対してテロを仕掛けたということで。ハマス殲滅ってことで、ずっとイスラエルがガザに攻撃をし続けて。もう既に3万人が亡くなってますね。
(石山蓮華)本当にひどいですよね……。
(町山智浩)で、子供の死者がそのうちの1万2000人ですよ。でもハマスに子供はいないだろう?っていうね。あと、医療従事者がすごい亡くなってます。お医者さんたちが。
(石山蓮華)じゃない人が、本当にたくさんの方が亡くなっていますね。
たくさんの子供が亡くなる
(でか美ちゃん)ねえ。それはもう普通に考えたらわかるというか。わかりきってやってることでしょうと思いますよね。
(町山智浩)そうなんですよ。ただね、ここは壁に囲まれて。産業が漁業ぐらいしかないんですね。で、その壁の外に出ることができないんですよ。壁の中で生まれて、壁の中で死んでいくんですね。パレスチナの人たちは。だからみんな、全く夢も何もないんですよ。未来も。で、1人の女の人が言うんですね。「子供の頃に何も夢がなくなった。ひとつの夢は早く大人になって、イスラエル人を殺すことだ」って言うんですよ。だから、ハマスが生まれたんですよ。それを生み出したのは、イスラエルなんですよ。そういうこともね、わかる映画なんですけども。あとね、手や足のない人たちがいっぱいいるの。子供たちの中にも。爆弾をいっぱい落としているから、もう当たり前のように手や足のない子供たちがいるんですよ。今、それがどんどん増えてますね。ということで、ぜひ見ていただきたいのがこの『ガザ 素顔の日常』ですね。東京の一部劇場で現在も上映中です。
映画『ガザ 素顔の日常』予告編
パレスチナ自治区のガザ地区に住む人々の日常を描くドキュメンタリー。同自治区の中で長さ約50kmに渡って細く延びるガザ地区を舞台に、困難な状況の中で日々の暮らしを営む人々の様子を映し出す。監督などを務めるのは、ガリー・キーンとアンドリュー・マコーネル。『メイズ 大脱走』などのブレンダン・J・バーン、『アンを探して』などの作品に携わってきたポール・カデューがプロデューサーを担当している。
作品情報:https://www.cinematoday.jp/movie/T002...
配給: ユナイテッドピープル
公式サイト:https://unitedpeople.jp/gaza/
(C) Canada Productions Inc., Real Films Ltd.