Mao Fujita 藤田真央 Mozart Piano Sonata No.10
終始柔らかい笑顔を絶やさず、気負わず純粋で音楽の喜びに溢れた演奏に惹き付けられる。ダイナミックレンジが広く、音量コントロールに優れていることに驚かされた、無意識ではあると思うが的確な音量にぴったりあてて来る、それがナチュラルな表現につながる。
ピアノ・ソロ・プログラムでは、思わずモーツァルトが聴けたのも嬉しかった。というのは藤田が最も好きという作曲家だから。
モーツァルト ピアノ・ソナタ第10番 ハ長調 K.330
人生いつどこで、どんなきっかけで曲の魅力に気付くのかなんてわからないものだ。
今までも何度となくモーツァルトのソナタ第10番K.330を聴いたことはあったが、録音で聴いただけで実演は未経験だった。しかし藤田真央の終始柔らかい笑顔を絶やさず、気負わず純粋で音楽の喜びに溢れた演奏に初めて触れ、それはそれは驚くほどの演奏に、この曲はこんなに素晴らしい曲だったのかと改めて思い知らされた。
この第10番や有名なトルコ行進曲付きの第11番を含む、第10~13番(K.330~333)の4曲は、ずいぶんと長い間、1778年にモーツァルトがパリ滞在時に作曲したものだと思われてきた。19世紀~20世紀初頭のフランスの学者テオドール・ド・ウィゼワとジェルジョ・ド・サン・フォアは、年代学研究を通して作曲時期は1778年の7月から9月だと推定した。当時のモーツァルト研究の権威アルフレート・アインシュタインも同意している。
これはモーツァルトの母の死の翌年にあたる。最愛の母を亡くし悲嘆に暮れていた直後の1778年に書かれた第8番のソナタは珍しく短調のソナタだが、第10番は明るいハ長調である。「あの悲痛なソナタ第8番が生まれるのは納得だが、このあっけらかんと明るいハ長調ソナタも?」と思った人は当時も多かったことだろう。
現在のところ第10番は1783年7月から10月に作曲されたとする説が主流だ。タイソンは、おそらくモーツァルトはウィーンにいる生徒たちのためにこの曲を書いたのではないかと述べる。というのは、普段モーツァルトがピアノ曲で使うことのないハ音記号などが使われており、指導のためにわざと使って書いたのではないかと考えられるからだそうだ。難易度もそれほど譜読みに苦労するような曲ではないし、初学者でも十分弾くことは可能だ。3楽章構成で14分程。
しかし、ある意味パッパラパーな明るさを持ったこのソナタを魅力的に演奏するのはまた別の困難さがある。名ピアニストたちによる多くの録音が残っているが、当然70年代以前の録音では、この曲はパリ時代に書かれたというのが通説であり、突き抜けて明るく弾くのを躊躇したピアニストもいたことだろう。そんな中で、藤田真央は飛び抜けて明るく弾いる。
子ども向けにしても良いし、大人ももちろん楽しめる、モーツァルトはそういう曲が豊富で本当に素晴らしい。