福島事故 2024 その15: 使用済み燃料プール
毎年恒例の事故の話、同じ内容になりますが、視点を変えてみる努力をしながら、問題点を挙げてみようと思います。
この図は福島第一原発の損傷状況を示しているのだそうです。
一言、「信用できません」。
原子炉の圧力容器は図のような高い位置にはありません。
燃料棒は上部のパネル6層よりも下、地表よりも下に位置します。
圧力容器内の燃料棒の位置も、下側に同じ長さの制御棒を置く空間がありません。
唯一信じて良さそうなのは、各炉の圧力容器の底には水が湛えられている事でしょうか?
燃料棒も落下した気配がない、穴なんか開いていないようです。
今回問題にするのは使用済み燃料プールの状況です。
その前に整理しておきます。
日本の原発では13ヶ月間運転した後2ヶ月冷却期間を置いてから、3分の1の39ヶ月間(13x3)使用した燃料を「使用済み燃料」としてプール移し、2ヶ月以上の定期補修期間を経て、新たな燃料3分の1を足して再稼働に至ります。
2~5号機の場合、炉内にセットされるのは548本で、運転が終わる毎に183本が使用済み燃料プールに移動することになります。
原発に存在する燃料棒集合体を4種類に区分して見ます。
A)
39ヶ月の務めを終えて、2ヶ月冷却後「新たに」使用済み燃料となって使用済み燃料プールに保管されたもの。
2ヶ月(60日)冷却されて半減期が10日未満の核のカケラ、例えば沃素131(8日)は崩壊をほぼ終えていますが、半減期が60日前後例えばジルコニウム95(64日)は半分しか崩壊していません。
B)
使用済み燃料プールに移されてから15ヶ月(457日)以上経ったもの。
ジルコニウム95もあらかた崩壊を終えています。
このグループにはプールに移してから30か月、45か月以上経ったものも含みます。
15ヶ月以上も経つと崩壊熱量はさほど大きくは下がらないと思われるので同じグループとします。
C)
新しい燃料として炉内に投入され13ヶ月間運転されたもの。
生成された核のカケラの量はA)の3分の1、崩壊量も3分の1。
次の運転まで炉内に保管されます。
D)
炉内に投入されて26ヶ月間運転されたもの。
生成された核のカケラの量はA)の3分の2、崩壊量も3分の2。
次の運転まで炉内に保管されます。
ここでは規模が同じで、1回に燃やす量が548本の2~5号機について比較してみます。
図を見てみますと燃料の発熱量の項目、4号機のプールの異様な発熱量が目につきます。
燃料棒集合体の本数も一番多い。
5号機と4号機は同規模ですから同じような本数が保管されていて良い筈なのですが4号機の方が385本多い。
この理由は、4号機ではシュラウドと呼ばれる炉内の水流を制御する大きな円筒の交換という大工事をしていました。
普通であれば炉内に保管される筈の366本の使用中の燃料棒集合体が一時保管の為に使用済み燃料プールに移されていた為です。
総本数 A) B) C) D) 発熱量
(kcal/hr)
2号機 587 183 404 0 0 40万
3号機 514 183 331 0 0 20万
4号機 1331 183 783 183 183 200万
5号機 946 183 763 0 0 70万
崩壊が進んでいるB)の燃料棒集合体の発熱量をA)の半分としてみます。
C)の発熱量は核のカケラの量がA)の3分の1ですから発熱量も3分の1。
D)の発熱量は核のカケラの量がA)の3分の2ですから発熱量も3分の2。
これをもとに各号機の発熱量(崩壊熱量)を比較してみますと全く計算が合わない。
4号機の発熱量が200万(kcal/hr)になるなんて考えられない。
ここでは5号機の数字が正しいものと仮定して見ます。
B)タイプはA)の半分の発熱としていますからA)タイプの集合体1本あたりの発熱量は、
70x10^4÷(183+763÷2)=1240(kcal/hr)
B)タイプの発熱量は620(kcal/hr)
C)はA)の3分の1ですから413(kcal/hr)
Ⅾ)は3分の2の826(kcal/hr)
これを元に4号機の発熱量を計算してみると、
1240x183+620x783+413x183+826x183=939117
約94万(kcal/hr)と計算されます。
4号機の使用済み燃料プールに存在する水の量を1200トンだったとします。
図の左を参照すると高さにして10mになりますか?
使用済み燃料集合体はプールの底にあって、高さは4.35mです。
水の量が半分の600トンになると、高さが5m減って燃料棒がそろそろ顔を出す恐れがあります。
顔を出したからと言って騒ぐな、3分の1が水に浸かっていれば冷却は十分だという話はあるのですが、使用済み燃料プールに何もせずに放置するといつ頃燃料棒が顔を出すことになるのか?
使用済み燃料プールの水の温度は、冷却機能が働いていない為に100℃になっている、今にも蒸発しそうな状態だったとして、水の蒸発潜熱は2254.3kジュール/kgです。
600トンの蒸発に必要なエネルギーは、
600x10^3x2254.3=1.353x10^9kジュール
4号機の発熱量はジュールに換算して、
9.4x10^5x4.184=3.933x10^6kジュール/hr
1.353x10^9÷3.933x10^6=3.44x10^2hr
344時間=14.3日
5m減るのに14.3日、燃料棒集合体の高さは4.35m、あと65cm減らす事を考えると15日以上はかかりそうです。
長々と計算してきましたが何を言いたいのか?
「4号機のプールの水が無くなる!大変な事になる!」
と考えた人がいるのです。
牛の飼育には詳しいが原子力に関しては全くの無知という経産大臣をはじめとした「悪魔の民主党」の人たちが大騒ぎを始めました。
ついには自衛隊が出動してヘリで水を落下させる事態に陥りました。
参加された自衛隊員の方々には頭が下がりますが、2~3日放っておいても、後からバケツリレーで挽回できる話だったのではないでしょうか?
5号機の70万(kcal/hr)が正しいという前提で話を進めました。
これが正しいのかはともかく、何もしなかった3号機や5号機のプールの水はどれほど減っていたのか?
その減り方をみれば、4号機の処置が無用な作業だったかどうかがわかります。
「大変」の時ですから、万一の事を考えれば万全の処置をしなければなりません。
だからと言って長年プールの冷却を続けて来た東電は、プールの水がカラになる迄にどの程度の時間が必要かは分かっていた筈です。
水が干上がって空冷状態になったからと言って何が起きるのか?
福島の冷たい空気がプールの暖気の中に落ちて対流が始まります。
とある大学の試算では燃料棒集合体の温度は150℃ほどだとの計算もあったとフルタチ司会の番組でやっていました。
パンクするには程遠い温度です。
牛の飼育には詳しいオッサンは消防車に無理をさせて壊しちゃっていました。
無知は無駄を呼びます。
何でも大事を取ればよいという話ではありません。
(余談 1)
3号機の発熱量が正しいものとしたらA)タイプの発熱量は
2x10^5÷(183+331÷2)=574(kcal/hr)
これを元に4号機の発熱量を計算してみると、
574x183+287x783+191x183+383x183
=434805
約43.5万(kcal/hr)と計算されます。
燃料棒集合体が顔を出すには24日必要。
(余談 2)
あれこれ見ていたらこんな図が見つかりました。
某新聞社のものですが、どこの発電所の話なのかもわかりません。
こんな形式の使用済み燃料プールに水を掛けていた?
どこに掛けたのでしょうか?
混乱してきました。
(一言)
記事の更新は一日置きに行う予定です。