
この話は異色ですね。

クレヨンしんちゃんの『殴られウサギ』並に不思議な話です。
映画ビューティフルドリーマ(BD)の元になった話なのはファンの間では有名です。
だから夢がテーマなんです。
それと重要なのは諸星あたるの母が主役なことです。
主婦の一日の日常が最初に流れますが、そこからして引き込まれますね。
あたるの母がナレーションをします。
おはようございます。諸星あたるの母です。人は起きるとそれぞれ学校や職場へ行きます。それが生活というものです。ほうけている暇などございません。これから主婦として一日が始まるのです。
慢性的に欲求不満の夫と、食べ盛りの息子を限られた予算の中で満足させるにはテクニックを要します。そこに主婦としての存在意義があるといっても過言ではありません。
ベストを尽くしてもなお、噴出する不満。そこは力をもって制するしかありません。安易な妥協は家庭存続の危機でございます。
そして残り湯を頂いてハードな一日を終えるのです。やがて一人息子の就職結婚、主人の定年退職。いわゆる中流の上というんでしょうか、でもふと、時折胸をかすめるのです、娘時代の憧れではありません…けして不満でもありません…でも……懐かしいような…何かが…
違う箇所もありますが、覚えている限りを書いてみました。
このナレーションに合わせて、家族に朝食を食べさせ家を出させ、雑巾がけ、布団叩き、セールス撃退。筋トレ、テンちゃんと昼寝
夕飯にシジミを水に浸し、かぼちゃを切り夕飯支度、お酒やご飯の4杯目おかわりの阻止、みんなをお風呂に入れて 鏡台で髪をとかします。(台所の水がポタポタ垂れている場面など大好きな絵です)
髪をとかしながら、目頭に出来始めたシワを見るとこなんてリアリティーが凄いです。
そのあとはバーゲン会場にてプロレス技並のキックをくらい デパートの医務室であたるの母は目覚めます。
その時の医者は顔は暗いけど面堂かな。『あなた帰る場所がわかりますか?…たまにいるんですよ。分からない人が…』なにやら異様な雰囲気です。
家に帰ると あたるの母がいます。『母さんが二人おる…ア~ハハハ!』
ビックリした あたるの母の顔の作画は怖いですね。静かなる狂気を感じます。
その後も何回も医務室で目覚めます。
ある時は帰ったら老婆になった、あたるの母。あたるの父は遺影です。ラムの声で『大変、またお母様がボケたっちゃ! 孫のこけるをダーリンと間違えて…』 この時のラムの声が、落ち着いた熟女風なんです。生活感溢れた主婦という感じが流石声優さんですね。
そしてたまに現れる赤いスカートの童女。
またあたるの母は医務室です。メガネが精神科の医師のように、あたるの母の願望を解き明かします。
ご主人は遺影、ラムさんは声だけ、巧に存在を消されている。あなたが二人居たり、老婆なのはカモフラージュでしょう。あなたはあたるくんを一人じめにしたいという母親の願望があると話しますが、あたるの母は、私の願望はそんなちっぽけなものじゃない!と贅の極みを満喫します。
『どうせ私の夢なんだもの』
「でもな、おばちゃん、下に落ちたら夢は覚めるんやで」とテンに言われ一気に下へ。シュールです。
最後はカゴメカゴメをしています。あたるの母が振り向くと、そこには赤いスカートの童女が…
童女「あなた、だぁれ?」あたるの母は言います。
『妻でもあたるの母でも…なんでもよくなってきたわ…』
と微笑みながらカゴメカゴメを続けます。
ビューティフルドリーマでは映画なのでラムが主役で、ラムの夢です。ラムは若くてピチピチした美少女です。悲壮感はありません。
実験的な感じのする『みじめ愛とさすらいの母』は若さがもうなくなりかけた中年女性の悲哀も出てますし、毎日過ぎる日常の中でほんの少しの失望を積み上げている感じも上手く出ています。でもあたるの母は毎日に満足はしているのでしょう。でも段々歳を取ると白髪を見つけて悲しくなる気持ちなどなど、もっと楽しいことがしてみたいなど。初めて見たのは小学生の時でしたが、あたるの母の気持ちになって見てしまった感じがします。
何年も見てませんがまた見たくて堪らなくなってきました。脚本も面白いし、ストーリーにあった絵が最高です。