『 ねえ。
「自分がしたいことができなかった」なんて言い訳でしょう。
本当は「したいこと」なんてなかった。
自分がなにをしたいのかわからなかった。
だから必死で何者かになろうとして自爆したんじゃないの。
あまりにも親の期待に応えて生きてきたから、ありのままの自分なんて消えてしまった。
偽物の人工物の自分。
そんな君をマスコミは身勝手な人間と決めつける。
君は身勝手な自覚はないんだろうね。
他者との関わりのなかで自分を見いだせないなら、自分がなにをしているのかもわからない。
ネットの集団にまで阻害されて、どこまでも何者にもなれなくて、自分を捨てた親と社会に思いしらせてやりたかったんでしょう。
誰にもなれないってことは生きたまま殺されることだからね。
たぶん君は自分に呪文をかけた。
「復讐してやる。思い知らせてやる。殺してやる。」
根っから真面目な性格だから、何度も何度も繰り返し妄想を続けるうちに、もう、それをやるしかない状況まで自分を追い込んでしまった。
知ってる?
人間は雪山で遭難すると乱数を言えなくなるんだって。
でたらめな数字をならべようとしても出てくるのは「123456……」。
君もそうだったんでしょう。
いっぱいいっぱいで決めたことの変更なんてできない状態だったんだ。
インプットした行動の変更がきかなくなっていた。
誰かが君に本気で関われていたら…と思う。
脳の外側のストッパーとして。
でも、まだ終わりじゃない。
死ぬまでにはもう少し時間がある。
ただそのままの君でいいと、誰かが言い、その言葉を信じられる瞬間はきっと来る。
人間は、人と人の間でしか生きられないんだ。
君と向き合ってくれる他者のなかにだけ、君が生きられる場所がある。
やっと自分を発見したとき、君は罪の重さに畏れおののくかもしれないが、
愛や信頼は、腐った汚物や暗澹とした泥沼の底に眠っているものなんだ。
根拠はない。
でも私はそれを見たことがあるよ。』
「生きなおすのにもってこいの日」より。
田口ランディさん。☆