『ゆうくんのうそ』④
ぐんぐん浮かびあがるその気持ちのよさ。
「さあ、もう目をあけてもよいぞ」
思いきって目をあけてみると、インディゴの空におじさんと浮かぶ自分がいました。
遥か下には街の灯りが優しくまたたいています。

ゆうくんは感動で言葉もありません。
羽根をつけた酔っぱらいのおじさんがニタニタ笑っています。
「あれ?おじさんは小さくない」
「そうじゃ、空にあがると自由になって体が伸びるんじゃよ。
どうも地上はきゅうくつでいかんの。
ハハハハハハハハハ。」
しばらくの間、おじさんと空の旅を楽しんでいました。
(こんなふうに誰かにしっかりと手をつないでもらったのはいつぶりだろう…
そうだ、何年か前に、こうやっておかあさんに手をつないでもらって、ねだってねだってやっと連れて行ってもらった遊園地…
ほんとうに楽しかった…
でも、あれからおかあさんはずっといそがしくて不機嫌だったんだ…)
「やさしさじゃよ。」
ふいに優しい声でおじさんが言いました。
(やさしさ…?)
「そうじゃ、ゆうのうそのはじまりは、やさしさからきたんじゃよ。
おかあさんを想うやさしさ。」
おじさんは、またあのニタっと歯をむき出しにする笑顔でこう続けました。
「さっき言ったな。空を飛んだ人の話。
まだまだ車をつくった人、電気を発明した人、
それから、物語を書く人、ゆうの好きなウルトラマンを考えた人……
すべては最初はうそからはじまったんじゃ。
いや、うそじゃないな…
多くの人がうそだと決めつけたものなんじゃよ」
(うそと決めつけたもの…)
「ゆう、おまえは今、翔んどるじゃろ?
さっきまでのゆうは、それをうそだと決めつけておったじゃろ…」
「うん。」
「ゆうよ。自分の胸がな、ここらへんがな、痛んでくるしくなるようなうそはひかえたほうがいいかもしれんがの。
すべてはうそからはじまっとるともいえるのじゃよ。」
空に浮かぶ星星が、やわらかくまたたきます。

「たとえば?」
「そうさの、相手の人のことを考えてつくうそ。
さっき思い出したゆうのこどもの時のような…
おかあさんを悲しませたくなくてつくうそ。」
(保育園でいじめられて泣いたことをどうしても言えずに、今日は楽しかったよと言っていた自分。
ほんとうは保育園なんか行きたくない日、泣いてだだをこねたかったけどがまんしてがまんして、いってらっしゃいと手をふった自分…)
「それは悪いことかの?
わしにはまったくそう思えんよ。
むしろ、小さいのに立派じゃと感心さえするわ。」
(ちょっと立派すぎじゃったの)
おじさん…………
ゆうくんは、人にはじめてほめてもらえたようでほんの少し自分のことが誇らしくなりました。
~つづく。