『2つの樹』①
むかしむかしの大昔。
ある国の東の果てと西の果てに二本の大きな樹がありました
その樹のあたりには、他に何の樹もなくて、どちらの樹もずっとずっと一人ぼっち。。
小鳥が運んだ種が芽を出して、ゆっくりゆっくり根をはって、今はとても大きく繁った立派な樹になっています
時々やってくる村の人々や動物たちに、真夏の照りつける日差しをさえぎってやったり、
雨の日は大きな傘になってあげたりと、もう何百年もそのままです
時々、夜空があまりにも美しく輝く時に、おかあさん樹から生まれた頃の遠い遠い昔を思い出しました。

記憶の中に自分には双子のきょうだいがいて、同じ殻の中のふかふかのベッドで仲良くくるまっていたような、かすかな優しい思い出が残っています
「あの子はどうしているんだろう…」
「あの人は今ごろどこにいるのかしら?」
東の果てと西の果ての真ん中に流れ星が落ちます

(逢いたい……)
でも、大地にしっかりと根をはった2つの樹は、探しに行くことができません
そんな夜は、人知れず涙を流すだけでした


けれども太陽が顔を出す頃には、村人たちから感謝され大切にあつかわれている自分へとかえります
それはとても誇らしく、もっともっと強くなって、みんなのお役に立たなければ…という思いで2つの樹は、
やけつくような真夏の日差しにも
すべてを流すほどの大雨にも
村をふきとばすほどの強風にも
そのたびに強い根をはって耐え続けました
やがて、ある時代になり優しい王さまが町にあふれる貧しく家のない子供たちのために、大きな家を建てる計画をおたてになりました
子供たち全員が心安らかに暮らせる家を作るために
とても大きな樹が必要になり、王さまは木こりたちに丈夫で大きな樹を探してくるように命じました
木こりは東と西にわかれて深い森へと入っていき、大きな樹を見つけては
「子供たちの家になってくれるかね?」
と、たずねてまわりました
大きな樹たちは
「いっいやです。私には家族がたくさんいて、まだこの森からはなれたくありません!」
「せっかく恋人ができたばかりなのに、切られるだと?かんべんしてくれよ」
もう一方の森へ入った木こりも同じように断られつづけました
何日も何日も山歩きをした木こりは、芯からくたびれはてて
ふらふらとたどりついた東の樹の下に腰をおろしため息をつきました
星のきれいな夜でした…
~つづく