
きみと僕の間に、さまざまな葛藤が存在するように、
世界にもさまざまな葛藤が存在する。
世界は絶え間なく血をながしつづけている。
財産を盗まれた憎悪。
子供を殺された憎悪。
国を奪われた憎悪。
人格を無視された憎悪。
能力を軽んじられた憎悪。
愛を裏切られた憎悪。
夢を砕かれた憎悪。
信じている神をけなされた憎悪。
何かを奪うことと否定することがすべての「憎悪」のはじまりだった。
地球上ではありとあらゆる憎悪が人々のこころの中にひしめきあっていた。
(ヒトはなぜこのすべての苦しみをとおり抜けなければいけないの?
その先に一体何があるの?)
地球にはじめて降りたとき、きみは「憎悪」という感情を手のひらに包んでみた。
それは最初、この上なく醜くて重たい、鉛のようなオブジェだった。
きみはその「憎悪」にそっとくちづけをしてみた。
そしてもう一度手のひらに包んで自分の胸元へ持ってくると、
しばらくの間、目を閉じて何かを祈った。
きみが手を開くと、
そこに砂のように崩れて変わり果てた「憎悪」があった。
それはきみの指の間からこぼれ落ちると、
かすかな風に吹かれてどこかへと消えていった。
「憎悪…ヒトが魂の進化を学ぶために、作り出したモノ。
愛をより強く意識するために、作り出したモノ。
ヒトが創造した、やがて消えゆく運命にある、
黒い色をした束の間の芸術品ね」
きみがそっと、そう独り言を言った。
きみと僕の間に
さまざまな葛藤が存在するように、
世界にも
さまざまな葛藤が存在する。
『永遠という名の一瞬』より。
十和音 響さん。。☆