『いいですか。
これは魔女修行のいちばん大事なレッスンの一つです。
魔女は自分の直観を大事にしなければなりません。
でも、その直観に取りつかれてはなりません。
そうなると、それはもう、激しい思い込み、妄想となって、その人自身を支配してしまうのです。
直観は直観として、心のどこかにしまっておきなさい。
そのうち、それが真実であるかどうか分かるときがくるでしょう。
そして、そういう経験を幾度となくするうちに、
本当の直観を受けたときの感じを体得するでしょう。』
『でも……』
『まいは自分の思っていることがたぶん真実だと思うのですね』
まいはうなずいた。
『あまり上等ではなかった多くの魔女たちが、
そうやって自分自身の創りだした妄想に取りつかれて自滅していきましたよ』
まいは一瞬おばあちゃんに敵意のようなものを感じた。
闇の中の白刃のようにそれはきらりと光った。
おばあちゃんは見通したかのように、まいの手を両手で包んだ。
『まい、どうか分かって下さい。
これはとても大事なことなのです。
おばあちゃんは、まいの言っていることが事実と違うと非難しているのではないのです。
まいの言うことが正しいのかもしれない。そうでないかもしれない。
でも大事なことは、今更究明しても取り返しようもない事実ではなくて、
いま、現在のまいの心が、疑惑とか憎悪といったもので支配されつつあるということなのです』
『わたしは……真相が究明できたときに初めて、この疑惑や憎悪から解放されると思うわ』
まいは言い返した。
『そうでしょうか。
私はまた新しい恨みや憎しみに支配されるだけだと思いますけれど』
『そういうエネルギーの動きは、
ひどく人を疲れさせると思いませんか?』
「西の魔女が死んだ」より。
梨木香歩さん。。