おかあさん、ねむの木学園ね、
もう十年になるのよ。
何度、やめようと思ったことでしょう。
何度、もうだめだと思ったことでしょう。
けれど、持ちこたえてきたのよ、おかあさん。
夜中に一人、
『私は、これでいいのですか』と、
泣き泣ききいてもだれも返事はしてくれないけれど、
『いいのよ、まり子ちゃん』
と、どこかで声が聞こえました。
十歳できた子は、二十歳になりました。
十四歳できた子は二十四歳の大人になりました。
私は、職能専門高等学園というのをつくりました。
だって、中学を出て、またハンディキャップを持つため、
自立できない子は、高校で学び、
職業を身につけるため、必要なのです。
二十歳になれば、こどもの家から出る法律があるのよ、おかあさん。
そんなことできる?
十年も一緒にいて、二十歳になったら、ほかの大人の学園にゆきなさい、
さよならなんて。
おかあさん、私はまた重荷をしょいました。
家庭のない子もいるのに…
どこにいけばいいのですか?
ハンディキャップを持つために、
二十歳でも十歳のむつみちゃんに、どうしてバイバイいえますか?
おかあさん、人間って、
そんなにあっさりしたことできるのですか?
…………
おかあさん、
あんまり暑いので、
あなたが死んじゃった夏の日に、
長い手紙をかきました。
おかあさん、
天の神様にお伝えください。
人に手を貸すなんて、思い上がったまり子をお許しくださいって。
人に何かを教えようとしている傲慢無礼なまり子をお許しくださいって。
そしておかあさん、
自分のもっているものを
自分より、ハンディキャップを背負っている子にと思った私の、
どうにもならない甘ったれさを、
私はとてもとても恥じています。
まり子
『続 ねむの木の子どもたち』より。
宮城まり子さん。。