『モウイクツネルト、オチョウガツ~
オチョウガツニハ、モチクッテ~
ハラヲコワシテ、シンジャッタ~
ハヤクコイコイ、レイキュウシャ~♪』
私はびっくりした。
肢体不自由児施設からきた、
何度何度も手術してきた子に、
早くこいこい霊柩車、たいへんだぁと思った。
するとヒサノリが笑いだした。
二回目には、二人で歌った。
そして、二人は笑いながら寝てしまった。
私は廊下で恥じた。
子どもはなんて強いんだろ。
なんて育ちの悪いガキだろうと思った子の知恵がこの歌だった。
あくる日、私は言ってみた。
「ね、昨日の歌、聞かせてよ」
「ヨシ」
『モウイクツネルト、オチョウガツ~
オチョウガツニハ、タコアゲテ~
コマヲマワシテ、アソビマチョウ~
ハヤクコイコイ、オチョウガツ~♪』
私はやられた。
彼は、本当の歌を知っていたのに。
これが、この子の知恵か。
人のいう肢体不自由児の知恵。
知能の遅れていると言われる子の知恵か。
私は思った。
この子たちに、手をさしのばし、方向を指し示すだけで、
もしかしたら、この子たちで生きていける。
大人は、手伝い、方向を指し示すだけ。
開園式の最中、ウワァーウワァー泣きわめき、
私を理事長席にすわらせておかず、
走り回らせていた泣き虫のヒサノリ。
さあ、ここまでおいで…と
手を伸ばすと、一歩一歩、長い時間かけて歩いてきて、
私のそばまできて、
ばったりと両腕に倒れ込んできたヒサノリ。
五年たった今、泣いたり、甘えたりしていたヒサノリが
こんな詩を書いている。
ぼくは 歩く
ぼくの足を 信じて歩く
ぼくは 人よりも おそい
でも 歩く
大地を ふむたびに
からだぜんたいが あつくなる
ぼくは 歩くことの
よろこびをもつ
歩く 歩く
『ねむの木の子どもたち』より。
宮城まり子さん。。

*本日のあじさい
今日のお話のヒサノリくんは、その後10年目に突然、亡くなります。
その時の宮城さんの気持ち。
2012年10月17日投稿の
『与えられた大きな運命』
にのせてます。
数日前の大発作のとしひろくんの恋のお話も同時に記されています。
どうぞ、是非そちらも読んでみてください。