ナリ君は、よだれがでる。脳性マヒ。
ナリ君は、言葉があまりでない。「あ、あ、あのね」で通す。
ナリ君は、でもいつもにこにこしている。
ナリ君は、だまって走ってきて、力いっぱい抱いてくれる。
抱かれにくるのではない。
私のからだを自分でかこって、抱いてくれる。
……
ナリ君は、今幸せそうだ。去年から、学園のおそうじに手がまわらないので困っていたら、ひとりのおじさんがきた。
植木が大好き。
子どもが大好き。
ある知恵の遅れた子の働く工場に勤めていたけど
そこの社長が、悪くない子どもをひっぱたいたり、けったりしたので、けんかして、会社に勤めていた。
けど、子どもが好きで、ねむの木に働きたいときた。
…みるみる学園の庭や窓がきれいになっていった。
花も、たくさん咲きはじめた。
横田のおじちゃんは、
もう、耳が遠い。
「オ ジ チャン ゴ ク ロ ウ サ マ」
「あ、うんうん」
にこにこする。聞こえたのかな~と思う。
……
ナリ君は、学校がひけると
すぐに横田のおじちゃんをさがす。
すっとんでいく。
おじちゃんが掃除をしている間、
ぴったりくっついている。
ゴミを捨て終わった手押し車に、今度は、ナリ君がのっかってる。
おじちゃんに押してもらう。
ナリ君はうれしい。
耳の遠いおじちゃんと、
言葉のあまりないナリ君。
夕方、松とねむの木にかこまれたねむの木学園の門のところで、
車に乗ったナリ君と、
それを押すおじちゃんを見ると、
ああ、あそこに幸せがあると思う。
頭を撫でて、おじちゃんは帰る。
ナリ君は、手を洗って食堂に行く。
……
おじちゃんはやさしい。
ナリ君は幸せ。
松林の中の少年と、おじちゃんと犬。
何もしゃべることのない二人。
でも、すべてわかりあってる二人。。

時々の初心より
宮城まり子さん