しゃべることのない二人 | シン・135℃な裏庭。

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ナリ君は、よだれがでる。脳性マヒ。


ナリ君は、言葉があまりでない。「あ、あ、あのね」で通す。


ナリ君は、でもいつもにこにこしている。


ナリ君は、だまって走ってきて、力いっぱい抱いてくれる。


抱かれにくるのではない。


私のからだを自分でかこって、抱いてくれる。


……


ナリ君は、今幸せそうだ。去年から、学園のおそうじに手がまわらないので困っていたら、ひとりのおじさんがきた。


植木が大好き。


子どもが大好き。


ある知恵の遅れた子の働く工場に勤めていたけど

そこの社長が、悪くない子どもをひっぱたいたり、けったりしたので、けんかして、会社に勤めていた。


けど、子どもが好きで、ねむの木に働きたいときた。


…みるみる学園の庭や窓がきれいになっていった。


花も、たくさん咲きはじめた。


横田のおじちゃんは、


もう、耳が遠い。


「オ ジ チャン ゴ ク ロ ウ サ マ」


「あ、うんうん」


にこにこする。聞こえたのかな~と思う。


……


ナリ君は、学校がひけると


すぐに横田のおじちゃんをさがす。


すっとんでいく。


おじちゃんが掃除をしている間、


ぴったりくっついている。


ゴミを捨て終わった手押し車に、今度は、ナリ君がのっかってる。


おじちゃんに押してもらう。


ナリ君はうれしい。


耳の遠いおじちゃんと、

言葉のあまりないナリ君。


夕方、松とねむの木にかこまれたねむの木学園の門のところで、


車に乗ったナリ君と、


それを押すおじちゃんを見ると、


ああ、あそこに幸せがあると思う。


頭を撫でて、おじちゃんは帰る。


ナリ君は、手を洗って食堂に行く。


……


おじちゃんはやさしい。

ナリ君は幸せ。


松林の中の少年と、おじちゃんと犬。


何もしゃべることのない二人。



でも、すべてわかりあってる二人。。









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時々の初心より



宮城まり子さん