一部残酷……というかグロい描写があります。見るに堪えないってほどではない……と思うけど……全体的に暗いです。注意してお読みください。無理は禁物です(´・ω・`)

おっけ!全然だいじょぶ☆という方はどうぞスクロールを下へ。

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 幼いころから、爪を噛む癖があった。

 理由は知らない。いつから噛み始めたのかもわからないほど小さいころから噛んでいた。

「キース!あれほど爪を噛むなと言ったろう!」

 父さんの怒声に、肩を跳ね上がらせた。あわてて口から親指を離す。

「まったく、貧乏くさい。いつからそんな癖がついた?」

 父さんが大げさにため息をつきながら言う。俺は目を見開きながら父さんを見上げた。

「ごめんなさい……」

 俺だっていやだ。父さんにそんな目で見られるのは。

「父さん、俺のこと嫌いになった?」

「何をわけのわからないことを。早く寝なさい」

 父さんが俺に背を向ける。重そうなローブを引きずりながら、歩を進めていく。

「父さん」

 呼び止めると、父さんは振り返った。

「あの……」

「用があって呼んだのではないのか?からかいはほどほどにしてくれ」

 俺が口をつぐむと、父さんは前に向き直り、ため息をつきながら歩いて行ってしまった。その背中を見つめる。……本当はお休みのキスが欲しかったんだ。

 俺はあきらめて、自室に向かった。

「キース様、爪を噛むとまた怒られますよ」

 すれ違ったメイドに、そっと言われた。ダメだ、いつの間にかまた噛んでいた。

「あぁ、うん」

 親指を離し、腕を下ろす。いっそ縛ってしまおうか。そんなことを考えながら部屋に入り、ベッドに倒れこむ。

 父さんは俺のことが嫌いなんだ。俺が母さんを殺したようなものだから。

 父さんは母さんのことを話したことがない。ずっと前に執事が教えてくれた。体の弱かった母さんは自分の命と引き換えにオレを産んだ。父さんはものすごくショックを受けていた、と。

 要するに、俺がいけないんだ。俺が産まれたから悪いんだ。死んでしまえばよかったんだ。

 自分への嫌悪感で耐えきれなくなり、爪を噛みながら頭を掻きむしる。どうしよう。どうしよう。こんなのじゃまた怒られる。

 その晩は結局眠れずに夜を明かした。

「おい、どうした……?」

 俺を見て、父さんは驚いていた。

 頭から肩にかけて、血が赤く染めていた。親指からも血が噴き出している。白いシーツにはおびただしい量の血と髪の毛が散らばっていた。

「何でも……ないよ」

「なにを呆けたことを……!とりあえず医者だ!」

 父さんの走る姿を見た。前に見たのはいつだっけ、忘れた。

 怒られないだけ、嫌われないだけマシか。

 なぜか友達ができない。町に出れば子供はいる。だが、誰も近づいてくれない。隣国との交流もあったが、誰も俺と仲良くしてくれる子供はいなかった。ただ座っているだけの茶会が苦痛だった。

 だんだんやけになっていった。

「俺様に逆らうのか!?反逆者め!」

 と、すぐに喚く。俺の評判は目に見えるように落ちた。

 もういい。嫌え、もっと嫌え。蔑め。罵れ。殺してしまえ。

 父さんは最初は俺を叱ったが、無駄とわかるとまったく声をかけてくれなくなり、ただ後始末をするばかりだった。俺は父さんに抱きしめられたことがあったのかさえ分からない。

 爪を噛む癖は治らなかった。

 

 ストレスが原因で、父さんが病気になった。

 俺の独裁は一向に終わりの兆しを見せず――。そのうち、業を煮やした領民たちにとらわれた。

「反乱とはいい心臓をしているな!俺様は公爵の……」

「あぁ、公爵様は今しがた、お亡くなりになられた。あんたが公爵だ」

 絶句した。父さんが死んだ。驚愕の表情を隠せない。

 俺のせいか?

「俺たちは、あんたをリンチにかける」

 ……権力を失った俺は、見るに堪えないほどちっぽけな、ただの子供だ。

 これまで何人もを送ってきた処刑場の十字架に括り付けられ、俺は喚いていた。

「離せ!今なら許してやらんこともない、さっさとロープをほどけ!」

 誰も耳を貸さない。俺は何とか手足のロープを緩めようと暴れた。それも意味のないほどにきつく縛ってある。

「見苦しいぞ、悪魔め」

 足元に集められた干し草に、細い灯(ともしび)が落ちた。干し草が燃え上がる。

「熱い!熱い!熱い!熱い!熱いぃい!!」

 悲鳴を上げながら足元を照らす炎を見下ろす。嫌だ、死にたくない。いくら泣いても叫んでも誰も助けてくれない。這い上がってくる熱気は紅蓮の炎へと変わり、靴が焼け、服が焼け、肌が焦げていく。

「ぎゃあああ!!」

 生きたまま焼かれる。俺は全身で悲鳴を上げ、空を仰いだ。にくいほどに蒼い。

 ……あきらめたのは、炎が俺の心臓をあぶり始めた時だった。もう声も出ない。口の中、果ては目の水分まで飛んだ。きっと助けられない。もう脚の感覚はない。絶望し、憎み、妬んだ。誰に向けるのかわからない怒りが炎となって、俺を焦がす。

「……」

 ダメ、か。

 領民の何人かは気分が悪くなったようで、口を抑えながら帰っていった。もうほとんど感覚のない右腕を動かす。ロープが焼け落ちていた。熱で皮膚が溶けて十字架にくっついているのを引きはがし――親指の爪を噛んだ。俺の喉を炎がつつんだ。

 そうか、これが俺の記憶か。ろくなものがない。ただ一つ、父さんが頭に手を置いてくれたことがはっきりと思い出せた。

 そこで、俺は初めて一粒の涙をこぼした。目が乾いていたので、頬を濡らすまでには至らなかった。

 あれだけか。俺の喜びはたったあれだけか。悔しい、悔しいよ。情けないよ。死にたくないよ。生きたいよ。友達が欲しいよ。愛されたいよ。

 火の粉が上がる青空さえも、視界から消えた。すべては炎が飲み込んだ。

 もしも俺が十字架から降ろされることがないのなら――……俺ってなんて嫌な奴なんだ。

 媒体を無くした火が燃え尽きるころには、そこに誰もいなかった。最期まで一人きりだ。噛んだままの爪さえも、真っ黒に焦げていた。

 いつまでも威張っていて、いつまでも嫌われ者で、いつまでも悲しかった”何か”は、思っていたより少し小さい。亡霊となった俺だけがそれを見上げていた。

 いくら待っても、誰かが戻って来てくれることはなかった。

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ゴンベエが人間だったころの少し悲しいお話でした

伯爵とゴンベエの出会い、キース→ゴンベエとなった歴史はまた別のお話で(`・ω・´)

次回はグロ要素ありません\(^o^)/うpしたらまたどうぞお読みください<(_ _)>