――オレは頭から地面に突き刺さっていた。
あほと言われないうちになんとか脱出したいものだが、なかなかきつくて抜けない。四苦八苦していると、どしゃっと音がした。近い。
「いってー!乱暴なことしやがるなぁ、もう!落とされちゃったし!」
ヤバい、誰か落ちてきたんじゃないか?じっとりと脂汗がにじんだ。
「……なんだろうこの植物」
はっきり言って今まで生きてて一番嫌なところを目撃された!!!!しかも間違えられた!
「チューリップか?」
いやいやいやいやいやいやいやいや!!?目ぇ腐ってるんじゃねぇのお前!?チューリップって地面から二本の脚が突き出してる植物だったか?とにかく早く抜けよう。突っ込むのはそれからだ。
「……」
声からして男だが、姿が見えないので誰だかわからない。ミカエルじゃないことは確かだ。……膝を撫でられる。
「うぎゃあっ!!」
叫び、目をつぶる。――別に弱点とかいうわけではない。ただくすぐったかっただけだ。目を開けると、オレは見事に地面から抜けていた。上半身を起こす。背骨が痛い……。
あたりを見回すと、不毛地帯だった。枯れた木や角の生えた骨が転がっているんならまぁそれなりに雰囲気が出たかもしれないが、なにしろ本当に何もないので、何の感動も得ない。オレは地面に転がっている男を見た。思わず蹴り飛ばしてしまったらしい、ずいぶん遠くに落ちている。
「てめー何しやがる!いてーなぁ」
男は大声で文句を言いながら立ち上がった。
「悪い、手が滑った」
「手じゃねぇだろ脚だろ」
男が近づいてくる。オレは土で汚れた服を手で払った。そして、上を見上げる。
「オレ、落ちたのか」
上は――もうまぶしくない。闇の淵は見当たらない。ここを照らしているのは、地に沸きだしている溶岩だ。あそこに落ちなくてよかったと心から思う。
「だな。ついでに俺も落ちてるから安心しろ。というか反乱した奴の大体は落とされるのがオチだな。なんちゃって」
こんな時に冗談なんて言われても全く面白くないんだが……。むしろむなしくなるだけだった。
「ミカエルをやれなかった」
オレは天上に向かって手を伸ばした。
「まぁ、傲慢な悪魔に成り果てた大天使ルシフェルと言えど、弟をやるほど腐ってなかったってところじゃない?」
男がオレの肩に手を置いた。
「わりぃな、大将のオレが情に流されちまって」
「いや、賛成したのは俺自身だからな。お前はかんけーねーよ」
なんだか空っぽになった気がして、ごろんと横になった。それを見て、男も寝そべる。
「オレ、ルシフェル」
「知ってる。俺、アスモデウス」
「聞いたこともねぇ」
少し沈黙が流れた。アスモデウスの舌打ちが聞こえる。続いて、しつれーな奴、という文句。
「でも、どーして天使随一のお前が神様に反抗したんだ?」
そう、オレはエリートだった。誰にも劣らない才能で、一番神に気に入られていた。でも、だからこそ――。
「オレが一番偉い。オレが一番強い。オレが神だ。と思ってた」
「なるほど。よーするに、エリート過ぎてうぬぼれたわけね」
オレは舌打ちをして、失礼な奴、とつぶやいた。ん?アスモデウスの行動をなぞっている。
「おめぇは何でグレようと思ったんだよ」
アスモデウスは少し黙った。
「天使って規則厳しいじゃん。俺、女あさりしてみたいんだよねー」
なんと軽い理由だこと……。オレはあきれて言葉も出なかった。
「まぁ落ちた今では好き放題さ。なんならいっそ、お前、ここで――地の底で、神になっちゃえば?」
神、という言葉に妙な懐かしさを感じる。
「どういうことだよ」
「だからぁ、ここをオレ色に染めちゃえ☆ってわけだよ」
「オレ色、ねぇ。白色か?」
「バカかお前。もう黒いだろうが。今更真面目ぶってんじゃねーよ。それともいきなり『一人称が私(笑)』キャラに戻ったか?」
アスモデウスがにやっと笑う。オレはバカにされた気がして、アスモデウスの脇腹を蹴った。
「なにすんだよ、ひっでー」
「あのころとはちげぇよ」
「まぁ、俺も真面目”だった”けどね」
オレたちは顔を見合わせ、にやっと笑った。天で知り合うことはなかったが、なかなか面白い奴に出会った。
「だがよ、いくらオレが強ぇからって、ここを一人で何とかできるってわけじゃあねぇぞ?」
「そんなん俺が手伝ってやるって。ダチだろ?」
いつからダチになった……。そんな覚えは決してなかったが、悪い気はしない。
「これからルシフェル……や、ルーシー帝国を作るぞ~!」
アスモデウスが声を張り上げ、こぶしを突き出す。ルーシーってオレの事か?なんか女っぽいのだが。
「やめろって。オレはルーシーじゃねぇ。そんな女々しい名前嫌だぜ」
「ケチケチすると器の小さい男って呼ぶぞ」
「……」
オレはもう一度アスモデウス……略してアスの脇腹を蹴ったのだった。