「とりあえずこれからぼとぼとと同志が落ちてくるさ。使えそうな奴がいたら拾いまくればいい」

 アスが言うには、こういうことだった。

「めんどくせぇな」

「これもオレ色☆帝国(笑)を作るための事だろーが!」

 (笑)ってなんだよ……。

 まぁ、オレは神になるためだったらなんだってやるけどな。

「ん?」

 足元が妙にやわらかくなった。地面に目を落とす。

「し、死体!?死ぬまでやったのか!?天使って残酷」

「生きてるんですけど」

 死体と思ったそれはむくっと起き上がった。ひょろりとした細身の長身。端正な顔立ちだ。

「なんだか知らないけど寝転がってたら蹴り落とされましてね」

 なんだ、ただのろくでなしか。オレはため息をついた。

「眼鏡を無くしました。まったくどこぞのルシフェルだか豚だか知りませんが、迷惑な話です」

 オレの神経が逆なでされた。どこぞのルシフェルって、ルシフェルは一人しかいねぇよ!

「てめぇ、オレをブタと並べるたぁいい度胸じゃねぇか」

 上目づかいでそいつの顔をにらみつけても、奴はにやにや笑うだけだ。

「まーまーまーまー!ケンカはよくねぇぜ、落ちたもん同士じゃんかよ」

 アスが間に割って入った。

「ルーシー帝国作るってのに、早速敵増やしたらダメだろ」

 アスがオレをなだめにかかる。オレは唇を尖らせ、そっぽを向いた。

「僕も面倒ですからね。……ルーシー帝国とは何です?ここは地獄というんですよ」

 オレがなんか言おうと口を開けると、アスが一瞥をくれた。やめろ、と目で訴えている。オレは仕方なく口を閉じた。

「実はな、ここに俺達堕天使のための国を作ろうと思ってんだよ」

「なるほど。まぁ地面で寝るのも嫌ですからね。僕もお供しましょう」

「えー!?なんでよりによっておめぇがくっついてくんだよ!」

 すかさずヤジを飛ばすが、奴は全く動じない。なんて神経の図太い男だ。

「俺はアスモデウス!」

「あなたは物わかりのいいお方だ。どっかのボスザル気取りの豚と違って」

「おい、誰がボスザル気取りの豚だ!というか豚はボスザルにはなれねぇぞ!どうせ言うならボス豚気取りのサル……あれ?ボス豚気取りの豚じゃねぇか!」

「僕はベルフェゴールです。よろしくお願いしますね、アスモデウスとその……サル?」

 ベルフェゴールとかいう奴がオレとアスに笑顔を向ける。

「キーッ!気に食わねぇ奴だ!」

「おや、やはりサルではありませんか。一瞬サルシフェルとかいうどっかの底辺天使に見えた気がしたのですが」

 ベルフェゴールの笑顔が邪悪なものに変わる。天にオレの名を知らないやつはいない。まぁ、オレの顔を拝みたくても拝めなかった奴はいるだろうが。とにかく、こいつだってオレのことは知っているはずだ。

「サルじゃねぇっつってんだろ!」
 オレは顔を真っ赤にしながら叫んだ。
「いえ、向こう見ずなところはサルそっくりです。天を代表する大天使ルシフェルともあろうものが……」
 ベルフェゴールがため息をついた。最後まで言い切らなかったところに余計に腹が立つ。
「ルシフェルなんかじゃねぇ!」
 思わずそんなことを口走った。二人がきょとんとした顔をする。
「ルシフェルじゃなかったらなんだよ」
 アスに言われ、うなった。オレはルシフェルだ。だがルシフェルじゃないと言った。しかしここで訂正なんかしたらそれこそサルだとかブタだとか言われるに間違いない。
「――オレはルシファー。地獄の王だ」
 思い付きの名前を堂々と名乗る。アスはぽかんと口を開けた。
「前半はともかく、なんですか後半は。誰もあんたが王なんて認めてませんよ」
「ぐっ。ともかくオレが王だっつったら王なんだよ!天使時代、オレが一番偉かったからオレが王。そうなるのが当たり前だぁ」
 また不穏な空気が流れる。
「まぁまぁ、熱くなんなよ」
 アスが苦笑しながら間に入る。もう固定のパターンなのだろうか。
「黙れ!もう上司の顔色なんて気にしなくていいから思う存分ケンカすんだよッ」
「そうです。僕もこれからはずっとぐうたらしていると決めました」
「え、えぇ!?そこらへんで一致!?」
 かくして、オレたちは新しい仲間、ベルを連れ、地獄の旅をつづけたのだ。
「なんかさ、一言言っていい?」
「なんだよ」
「男ばっかでむさくるしい」
 ……。
 オレたちの間に残ったのは沈黙だけだった。