「決めた」
オレは脚を止めた。後ろのやつらが背中にぶつかってくる。
「いきなり止まるなよー……。なんだよ、トイレか?落ちる前に行って来いよなー」
ベルの脚をもって引きずっていたアスがブチブチ文句を言う。オレは突っ込まず、その場にあぐらをかいた。
「疲れたからもう歩かねぇ」
後ろにばたっと倒れる。
「なんじゃそりゃ。歩けよ」
「歩かねぇと決めたら絶対に歩かねぇ。自分の決めたことはやり通す、それがオレという男だ」
オレは強い決意のまなざしでアスを見た。
「え、なんかカッコよく言ってるけど全然カッコよくねぇ。早く立てってんだよ」
アスがオレの体をつま先でつつく。ベルゼブブは黙っていたが、直立したまま後ろに倒れた。
「いきなり何ー!?」
アスがベルゼブブを見る。
「……ルシファーさんが寝るんなら、きっと何か意味がある……だから僕も寝る……」
なんてぇ忠実なハエ野郎だ。寝方は変えた方がいいと思うが。
「あら、屈強そうな殿方たちですわ」
どこからか、すんなりと耳に入ってくるきれいな声が聞こえた。一同同じ方向を向く。そこには、いかにも清楚な感じの若い女が立って、くすくす笑っていた。
「誰です?」
ベルが口を開いた。
「わたくしはマモンと申しますわ」
清潔感のあるレースのスカートの端をつまんで、マモンは上品に礼をした。
「あ、俺アスモデウスって言いまーす!」
ベルの脚を放り投げ、早速マモンを口説きにかかるアス。
「あぁ?マモンだぁ?オレをおこしに来たんなら無駄だぜぇ。とっとと帰りやがれ」
「わざわざサルシファーをおこすために来るやつなんて脳が腐ってますよ」
「てめぇいつか絶対にオレの靴をなめさせてやる」
オレとベルが冷戦を繰り広げはじめる。遮るように、マモンが口を開いた。
「皆さんで何をしようとしているんですの?」
「いや、ルーシー帝国を作るために人材を、ね」
アスがぴったりとマモンに寄り添いながら言う。ったく、こいつは……。あまりに呆れ、オレはベルへの反論を中断してしまった。
「ルーシー帝国ですか……。なんだかわかりませんが、何事にも対価が必要ですわ。わたくしは宝石や貴金属の掘り方を心得ておりますの。もしよかったら、わたくしも連れて行ってはもらえないでしょうか?」
マモンがくすくすと笑う。それを合図にしたかのように、ベルが片眉を上げた。
「確か天にいましたね。強欲のマモンという金品好きが」
マジか……。オレは口を開けたままベルを見つめた。
「うわ、サルがこっち向いてる」
その皮肉も耳に入らない。
「あら、バレてしまいましたの?せっかくあなたたちを使ってここの金銀財宝を根こそぎ掘り返そうと思っていたのに」
あっさり野望を口にする。堕天使って信用おけねぇなオイ。――おっと、オレも堕天使だったっけ。
「残念だったな、オレにその気はねぇ」
オレはマモンを見据え、微笑を浮かべた。
「というかもはや立つ気にもなれねぇ。だが金は欲しいから代わりにアスをよこす。もちろん山分けなんだろうな?」
「んだとてめー。鬼か」
「それは違います」
ベルが寝ころんだまま視線を鋭くした。オレを……かばってくれてんのか?
「彼はサルです」
「そっちにこだわるんじゃねぇよこのバカが」
「おや、どこかからキーキーとサルの鳴き声が」
ふたたび二人の間に火花が散る。
「あなたたちが帝国を作ればきっと悪魔たちも集まってきますわね。いいですわ、採掘はその時にしましょう」
「なんかこのアマついてくる気でいるんですけど」
オレがこぼすと、マモンが顔に深いしわを刻んでこっちをにらんできた。
「さーせんさーせんほんとすいませんした」
ぺこぺこと頭を下げ、座ったまま後ろに下がる。
「……ルシファーさん、フラれたの……。かわいそうに」
ベルゼブブがじっとりとした視線をオレに向けた。
「ちげぇよ!」
「サルなら当然の結果ですね」
「ちげぇっつってんだろ!」
「ルーシー、隠さなくてもいいんだぞ?」
「てめぇどんだけ嬉しそうなんだよ!」
なんでオレはいちいち残念な奴なんだ……。
後についてくる奴を一人増やし、憐れまれるオレは必死に否定しながら地の底をすすんだ。