「 いらっしゃいませ、櫻井様
今日はどういったご用件でしたか?
申し訳ありませんがお仕立てにはもう少し
お時間をいただきたいのですが… 」
さっきの言葉は無視して対応すると明らかに
不機嫌な顔になった。
この人、人材派遣やレンタル彼氏なんてやっ
ているくせにわりと顔に出るよな。
「 ネクタイを見にきた 」
「 そうでしたか
それはありがとうございます 」
できれば相手をしたくなくて周りに手の空い
ている人がいないか見回してみるけどみんな
忙しそうで声がかけられない。
あぁもう、しかたないか…
「 ご案内いたします 」
「 このスーツに合うネクタイを選んでくれ 」
「 かしこまりました 」
ズラリと並んだネクタイの中から数本合いそ
うなものをチョイスしてみたけど櫻井さんの
趣味に合うかな?
「 この辺りでいかがでしょう? 」
「 相葉はどれがいいと思う? 」
「 私ですか?そうですね…
こちらがお似合いだと思います 」
「 わかった、それでいい
オマエが選んだそのネクタイで食事へ行く
ことにするから必ず今日中に連絡しろ 」
「 へ? 」
「 いいな、今日中だ 」
「 いや、あの… 」
返事もしていないのにスタスタとレジへ向か
う櫻井さんを追いかける。
また店内でもめるわけにもいかない。
「 返事は? 」
「 ………今夜連絡します 」
しかたなくそう答えると櫻井さんの表情が少
しだけ緩んだ。