* S *
雅紀がフィルムを撮り切ったというので暗室
で現像の仕方を教えていた。
「 そうだ、そっとな 」
「 うん…うわぁ緊張する 」
「 まぁ慣れるまではモノクロ印刷だな
カラーにしたかったらオレがやってやる 」
「 はい、先生 」
「 だからそれはやめろ 」
「 だって教えてもらってるもん 」
「 いつも通り呼ばないと教えないぞ 」
「 えっうそ!しょーちゃんお願いします 」
「 わかればいい 」
雅紀が撮った写真は相変わらず素直で素朴な
ものばかりだった。
構図がいいのは勉強の成果と元々のセンスも
あるんだろう。
「 これいいな 」
「 へ?どれ?
あ、それは公園で撮った桜の蕾だよ 」
「 ピント合わせもよくできてる 」
「 くふふっやった! 」
「 桜が咲いたらまた撮って見せてくれ 」
「 うんっ
そうだ、しょーちゃん
公園の近くにあるダイニングバーって行っ
たことある?
今日ね、公園でそこのスタッフの人に声を
かけられたんだ 」
「 へぇ…どんなやつだ? 」
「 くふふっイケメンだよ、潤っていうの
フィルムカメラがめずらしいねって
それから撮った写真が見たいって 」
「 店には何度か行ったことがある
今度一緒に行くか? 」
「 うん、行く! 」
カメラを通しての新しい出会いか…
うれしそうに現像した写真を見つめる雅紀が
写真を始めた頃の自分と重なって懐かしく、
そして羨ましかった。