* S *
取材撮影旅行中、雅紀にスマホで撮ってもら
っていた写真はどれも素朴であたたかい印象
だった。
やはりカメラはその人の内面を写すのか。
「 ん? 」
何十枚もある中で1枚だけオレの写真があっ
た。
いつ撮ったのかわからないが視線はカメラ、
いや雅紀を向いている。
そしてその表情は自分でも知らない穏やかな
ものだった。
オレは雅紀の前であんな顔をしているのか…
写真を撮ることが好きだ。
それは今でも変わらない。
けれど、賞をとって仕事が増えていくうちに
人間の醜いモノをたくさんファインダーから
見るようになった。
欲望、嫉妬、媚び諂い…
だんだんと純粋に " 人 " を撮ることができな
くなった。
納得のいくものが撮れなくなった。
だから人を撮ることをやめた。
「 オレもまたこんな写真が撮れるようになる
のか?雅紀といれば… 」
オレのモノ、オレのペット。
雅紀は嘘をつかない。
ただそばにいてくれる。
その存在がこれまでにないほど心地いいと感
じていた。