* A *
オレを拾ってやると言ったその人は一度も振
り返ることなく歩いていく。
本当についていっていいのか不安になるけれ
ど、どちらにしてももうオレの居場所はどこ
にもないんだからダメでも同じことだ。
サク…サク…サクッ
雪道を歩く音だけが静かな夜道に響く。
15分くらいしてあるマンションの前に着くと
やっとその人は振り向いた。
「 来い 」
手袋を外し、差し出された手に戸惑いながら
手を重ねるとぬくもりが伝わってくる。
「 かなり冷えてる…先に風呂だな 」
マンションの自動ドアが開いて手を引かれた
けれど一瞬迷って足を止めた。
「 やっぱりやめるか?
逃げるなら今のうちだぞ 」
「 ………アナタはオレを一人にしない? 」
「 飼い犬に寂しい思いはさせない 」
その言葉に嘘はないような気がして繋いだ手
をギュッと握った。
「 いい子だ 」
エントランスを通ってエレベーターに乗ると
グングン上へと上がっていく。
この人、お金持ちなんだろうか?
こんな得体の知れない男を拾って帰るんだか
らきっと一人暮らしだよね?
ガチャッ
促されて中へ入ると予想通り広くてキレイな
部屋だった。
家具も統一されていてセンスがいい。
ただダイニングテーブルの上だけは仕事関係
らしき書類で散らかっていた。
「 どうした
そんなところに立っていないで風呂の湯が
たまるまでそこのソファにすわって待って
いろ 」
「 あの、オレ…すごく濡れてて汚しちゃうか
らここでいい 」
雪で濡れた上着からポトリと雫がたれる。
「 あぁ悪い、そうだな
とりあえずその上着は脱いでこれを羽織っ
ていろ
今タオルを持ってくる 」
わたされたカーディガンはフワフワですごく
あったかそうだった。
何もかもが上質そうなモノばかり。
けれどなんだかこの部屋はキレイすぎて生活
感がなく寂しい感じがした。