整形外科の手術治療を大まかに分類すれば、①骨折部や関節を安定化する、②神経への圧迫を除去する、③傷んだ部分を除去・置換する、となります。これらの処置によって“痛み”を軽減させ、通常に近い日常生活に戻すことが整形外科医の使命です。しかし、近年、手術することが目的となっている事例が多く見られ、その場合は術後に痛みが残るだけでなく、思わぬ合併症を引き起こすことがあります。

長年の臨床現場において、同じ疾患に対して時には手術加療を、時には保存的加療を選択し、様々な結果を見てきました。そこで今回は、自分で経験した症例や他院で治療後の良い結果と悪い結果を参考に、「この場合はなるべく手術をした方がいいであろう」という疾患をピックアップしました。手術目的はあくまで、“痛みを軽減(除去ではない)”し、日常生活を送りやすくするためであり、痛みを完全に取り除き元通りにするものではない事は何度も強調しておきます。

 

半月板損傷:突然、膝が曲げも伸ばしもできなくなる“ロッキング”が起こるようなら、損傷し浮遊する半月板が軟骨を傷める可能性があります。軟骨は再生しないので、早期に損傷半月板を縫う(若年者限定)か、切除すべきです。

肘部管症候群、手根管症候群:手の筋委縮(筋肉が痩せる)が生じる前に手術を行うことがベターです。しかし、手術を行っても、時間の経過(510年単位)とともに筋委縮は生じることが多いです。

腰椎椎間板ヘルニア:3週間で大まかな痛みは和らぎ、3か月でほぼ通常の生活が送ることが出来ますが、途中、運動麻痺(かかと立ちや、つま先立ちが出来ない)や膀胱直腸障害(尿が出ない)が生じるようであれば躊躇なく手術をすべきです。

腰部脊柱管狭窄症:高度の間欠性跛行(数十メーターで足が痛くなり歩けない)と膀胱直腸障害が出現すれば、日常生活の質が低下するので手術をすべきです。しかし高齢者の場合、加齢の影響で尿排便が分かりにくいことがあります。高度な間欠性跛行の無い膀胱直腸障害は基本的にないので、膀胱直腸障害症状単独での手術は要注意です。

人工股・膝関節置換術:強い関節痛の為、引きこもりがちになったり、趣味が減ったり、友達付き合いが無くなってきたら、積極的に手術を行うべきです。

手関節骨折:転位が強いと痛みや腫れが高度になり、複合性局所疼痛症候群を惹起させ、手指と手関節の拘縮が生じ日常生活に支障がでます。なるべくプレート固定して正常解剖に近づけ、早期リハビリを行うのがベターです。

大腿骨頸部骨折:早期社会・在宅復帰が目的であれば、人工骨頭や骨接合術の選択と早期リハビリのセットが重要です。しかしもともとADLが低い(寝たきりや車椅子生活に近く、持病で運動が困難、高度な認知症がある)場合は手術・リハビリ効果も低いので、手術しない選択肢もあります。しかし、痛みが落ち着くまで1か月かかり、持病の悪化やADLがさらに低下する可能性はあります。

頚髄症:手指巧緻運動障害や歩行障害は自然軽快することは難しいので、若ければ若いほど(大雑把に70歳代前半まで)、また合併症が無ければ手術加療がベターです。

習慣性肩関節脱臼:若年者アスリートで競技を継続するようであれば、手術加療がベターですが、固定期間とリハビリ期間が長くなります。

膝関節靭帯損傷(ACL,PCL,MCL):若年者アスリートはもちろん、不安定感(ACL>PCL)や疼痛(MCL)が強く、日常生活や就労に支障があれば手術がベターですが、固定、リハビリ期間が長くなります。しかし中年以降に変形性膝関節症を発症しますので、大切にアフターケア(筋トレ、適度な運動)をしましょう。


column


近年、いろいろな差別に対する意識が増し、今まで当たり前に感じていたことが、そこには差別的意味を含んでいたと思い知らされる事が多々あります。アメリカでは「積極的差別是正措置」と訳されるアファーマティブ・アクションが導入され、入試や雇用・昇進に際して人種やジェンダーに配慮する取り組みがされています。しかし近年は“ホワイト・プア”が問題となり、その原因がアファーマティブ・アクションによる「逆差別」とする議論が巻き起こっています。医学には性差医療という分野や、人種によって手術や薬の効果が変わるとする報告が多々あります。足の付け根の骨折は全身麻酔で金属を使って骨接合を行い、通常は3-4週間の入院、リハビリ加療が必要です。10年前、ハワイ旅行中に骨折した患者さんが手術翌日から歩かされ、3-4日で退院させられ、抗生剤の自己注射を持たされて飛行機で命からがら帰ってこられ、すぐに当院に入院されました。異国の病院でのいろいろな苦労話を聞くと、アメリカ医療と日本医療の違いを思い知りました。また元テニスプレーヤーのマレー選手は人工股関節の手術をしてからすぐにテニスツアーに復帰し、シングルスで好成績を残しました。普段患者さんには、人工関節は一発勝負なので、その後は無理をしないように指導しますが、欧米では人工関節が壊れ不具合が出れば入れ替えるというスタンスです。恐らく、アジア人種と欧米人種とは、筋骨格の強度が違うのだと思います。欧米の文化などを吸収する能力に長けている日本人ですが、アジアと欧米の医療行為に対する人種間差を身近に経験すれば、欧米から導入された手術や薬の使用に関する検証は、よほど慎重に行うべきだと思っています。


 

次回は正直整形外科「医療事故から逃れる方法4“お勧めする内服治療 1”」です。

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