仙腸関節は俗に言う“骨盤の関節”で、仙腸関節障害とは“骨盤の関節がずれている”状態といえます。図1のように通常の関節は体幹に直交し、重力方向にかかる荷重を支えています。しかし図2のように仙腸関節は体幹に対してほぼ平行なため、上半身の荷重(G)の(G1)成分と、足から突き上がる荷重(F)の(F1)成分それぞれが、平行で逆向きの剪断力となって仙腸関節に作用します。実際、仙腸関節部は硬い靭帯で強く固定されているので、容易にずれることは無いものの、強い剪断力が炎症や痛みを起こします。仙腸関節を含む骨盤は、直上にある脊椎に対してビルの免震構造のようにバランスをとり、日常生活のさまざまな動きに対応しています。よって長時間の立位、座位、しゃがみ仕事、中腰での作業や不用意な動作、あるいは股関節への繰り返しの負荷(踏みつける動作)などで仙腸関節に微小な不適合を生じさせ、それが炎症を発生させ痛みが生じます。また冷えで症状がさらに悪化、長期化する傾向があります。

痛みで長い時間椅子に座れない、仰向けに寝れない、痛いほうを下にして寝れないなどの症状がある一方、歩行開始時の痛みは運動することで身体が温まり徐々に楽になります。また臀部中央から大腿部外側にかけての痺れ感が生じますが、これは腰神経に沿っていないことが特徴的です(図3)。 

痛みが強い場合は、レントゲン透視下で仙腸関節腔を確認しながら、ブロック注射をします(仙腸関節ブロックが出来るか確認が必要です)。起床時や就眠時にベッド上でストレッチ(図4)を行いましょう。座りっぱなし、立ちっぱなし、しゃがみっぱなしは避けて、休憩回数を増やして腰痛体操(腰痛のトリビア:腰椎椎間板障害の図1,2参照)を行いましょう。


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令和6425日、日本消化器外科学会から国民に向けて下記の緊急提言が発せられました。

地域における消化器外科の診療体制維持のために必要な待遇改善(インセンティブの導入など)について、ご理解と後押しをお願いします」

医師の総数が20年間で3割以上増えている中で、消化器・一般外科は唯一減少しています。これは消化器・一般外科の業務がとりわけ負担が大きく、診療科の選択として敬遠されてきた結果です。消化器外科医の数は10年後には現在の4分の3に、20年後には現在の半分にまで減少する可能性があります。そこで日本消化器外科学会は、①業務体制の改善、②タスクシフト、③インセンティブ(評価制度)の導入(緊急手術に対するインセンティブ、予定手術に対するインセンティブ、基本給与の向上)を求めています。少子化問題も政府の対応が後手後手であったからこそ、やっと国民が目覚めた感がありますから、日本が誇るべき医療システム崩壊を防ぐには、国や医師だけではなく、国民全体が今の医療に対して真剣に考えるべきでしょう。

次回は各論「腰痛のトリビア:腰部脊柱管狭窄症」です。