よく患者さんから聞く医師に対するクレームNo1は、「歳のせいと言われた」です。確かに人間誰しも歳には勝てず、軟骨も次第にすり減り、姿勢も悪くなり、筋・骨も減少します。巷では軟骨再生、シワやくすみ除去、筋肉増強・・・などの耳障りの言いサプリや施術があふれています。また最新研究を応用した医療が自費診療で提供され始め、変形性膝関節症に対する自己タンパク質溶液(APS)再生治療は片膝30万円もかかり、その効果は約12ヶ月間で永久ではありません。すなわち、古今東西、不老不死の薬はないのです。では我々は老化に対して“座して待つ”しかないのでしょうか?

世界から老化予防に関する学術論文がたくさん報告され、中でも“運動”の効果は高いと思われます。それを根拠に整形外科領域だけでなく様々な診療科にまたがって、サルコペニアとフレイルが注目され始めています。

サルコペニアは、筋肉量の減少が筋力や身体能力の低下を引き起こしている状態で、歩く、立ち上がるなどの日常生活の基本的な動作に影響が生じ、介護が必要になったり転倒しやすくなったります。フレイルは加齢による身体的機能の低下や社会とのつながりの減少が原因で、身体能力のほか、精神的、社会生活面に衰えがみられる状態です。すなわちサルコペニアもフレイルも、生活の質を落とすだけでなく、いろいろな疾患の重症化や合併症を引き起こし、最後は生存期間に影響します。
よって、自分に合った運動をコツコツと継続し、自分なりに“老化に抗う”ことが重要です。また同じ運動量でも小分けすることによって身体への負担が減りますし、杖や歩行器などを上手に利用することも重要です。よく患者さんに運動をするように説明すると、「犬の散歩をしているから大丈夫」「庭仕事や家でゴソゴソしているから大丈夫」と言われますが、犬の散歩はあくまで犬の運動、庭仕事や家でゴソゴソは作業であり運動ではありません。

100歳前後で日常生活もほぼ自立し、受け答えもしっかりされている方に共通していえることは、食事がしっかり摂れている、いっぱいしゃべれる、姿勢がいい、日々の生活のルーティーンを守っている人です。そのような方は必然的に若く見えます。

以上から“老化への抗い方”は、運動、食事、コミュニケーションと、当たり前の結論に落ち着きます。より若いうちに意識をもって実行することがポイントで、決して近道はありません。サプリや流行りの情報に惑わされずに、自分に合った運動習慣を身につけ継続する、バランスのいい食事をしっかり摂る、いっぱいしゃべることをコツコツと行っていきましょう。



コラム:日常診療で患者さんは次の3パターンに分類できます。

① 体力、活動量が落ちていく自分が許せない

② 同年代を見渡し年相応に現状維持

③ 年老いていく自分に興味が無い 

私は自分も含めて患者さんにも、常に3年後の状態を予想し、今後3年間持続可能な運動、日常生活を送るように意識し、努力、工夫することが重要であると説明しています。①の方は持続不可能な目標を立てて、それが達成できないとドクターショッピングやサプリ、民間療法に走る傾向があります。③の方はどんどん活動性が下がり、内科的疾患や骨折などを引き起こし、それが老化に拍車をかけます。恐らく、理想は①と②の間あたりにあるのでしょう。



次回は「痛みのピットフォール」です。