self-limited disease(自己制限疾患)とは、「特異的治療または治療なしでも自然に寛解する疾病過程」とステッドマン医学大辞典にあります(寛解:治ったように見えても、まだ病気状態が続く予断を許さない状態で、“治癒”とは異なる)。整形外科の疾患は外傷などによる骨折や化膿性病変は除き、腰痛、肩痛、膝痛、股関節痛の初期は、治療無しでも症状は一旦軽快・寛解しますが、しかしそれは自分の身体がその状態に適応しただけであり、身体内では何らかの不可逆的変化が生じています。そのうち新たな痛みの波が襲ってきますから、そのまま放置し痛み止めで胡麻化さず、何らかの対策を考える必要があります。
元来、人間の体は常に生理学的バランスがとれた状態を維持するホメオスタシス(均衡維持や恒常性維持)という機能があります。例えば図の関節Aよりも、関節Bのほうが関節面の接触面積が広いので安定します。相対的または絶対的筋力低下などで関節Aがグラグラすると、決して関節Bには変化できないので、関節A´のように骨棘が形成され接触面積が拡大し、関節自体は安定化します。これは一見自然治癒能力のように見えますが、元の状態に戻ったのではなく、現状に適応した結果です。ほとんどの整形外科疾患はほぼ3か月でself-limitedな状態になるので、ちょうどこのころにサプリを購入し飲み始めたり、整形外科でヒアルロン酸の関節注射を継続したり、リハビリに通ったりすれば、一連の行動が奏功したと誤解します。そもそも人間の身体は「1袋にレモン約960個分のビタミンC」なんて必要としませんし、もし必要であればその個体はとっくにこの世から絶滅しているでしょう。飲むヒアルロン酸も、口→胃→腸への過程で分解され、血中に乗って関節に届いたとしても、都合よく関節内でヒアルロン酸に合成されるとは思えません。
この骨棘は膝関節だけでなく、股関節、指、肩、脊椎椎間板などあちこちに生じ、レントゲンではっきりと確認できます。そして原因に対処せず痛み止めで胡麻化せば、各関節の痛みは定期的に悪化して、最後は関節変形の程度が悪化し、人工関節の手術が必要となってきます。内科的疾患も同様で、元気な人でも肺CTなどで昔の肺炎の後が残り、内臓に生じた炎症も修復はされるも非可逆的変化を来しています。一方で風邪やインフルエンザなどの感染症では、免疫がその都度バージョンアップされ、それが次の世代に引き継がれていきます。整形外科領域でバージョンアップされる疾患はありませんから、痛みを経験すれば再度痛みが来ないように自分で対処するしかありません。
年齢からくる痛みに関しては、ほぼ筋力低下、運動不足が原因ですから、自分に合った運動や筋トレを開始しましょう(各論では各疾患の筋トレや運動などを説明します)。一方、運動で生じた痛みは、その運動の仕方(運動量、運動強度、身体の動かし方)などに問題があることが考えられます。その場合は痛みが軽減した段階で、同じ運動動作をしてみて、ある動作で痛みがあればその動作が間違っていると考えるべきです。この“痛み”を利用したフォーム改善、運動量調整の工夫はお勧めです。特に子供の投球動作、ラケット運動動作時の肩~肘~手首の協調運動確認にも応用できます。
コラム:ようやくサプリの弊害が報道され始めました。整形外科領域でも特にビタミンDやカルシウムが入ったサプリで、結晶性関節炎を発症する方がとても多いです。もちろん骨粗鬆症の治療で使用するビタミンDやカルシウムで高カルシウム血症を引き起こし、胆石や尿管結石、結晶性関節炎を引き起こす方はいらっしゃいますが、病院からの処方薬であれば医師が定期的血液検査で副作用を把握できます。しかし市販のサプリメントは、自分が体調変化を感じ病院を受診するまでに病状が悪化している可能性があります。昔から言われ続ける「医食同源」という考え方が非常に重要で、自分の体内に取り込む食品は自分で管理することが非常に大事です。バランスのいい食事が一番大事で、バランスの悪さをサプリメントや加工品などでカバーする考え方は、この事件を機に考え直すべき時に来ていると思われます。
次回は「老化への抗い方」です。