身体から発される危険信号はred flag sign(赤信号)と呼ばれ、対応に急を要します。一方でyellow flag signは注意信号で、要経過観察が必要です。
それぞれネットで調べれば、症状に応じてさまざまな情報を得ることが出来ます。
腰痛red flag sign:突然に発症し激痛である、安静や臥床しても良くならない、発熱や体重減少があり、尿が出ない、臀部、下肢の感覚が無い、鈍い、動かない など
しかし日常生活において、ここまでのレベルの症状は滅多に生じません。むしろ通常の外来で多々あるのはyellow flag signで、これに関してはあまり言及されることはありません。また下記に示すyellow flag signで整形外科を受診すると、ややもすればレントゲンも取らず触ることもなく、痛み止めとシップを出され、リハビリに通うように言われるかもしれません。そしてリハビリに通わずまた再診すれば、“リハビリに通わないから治らない”とダメ出しされます。
詳細は後の各論(各部位、疾患別に取り上げます)で述べますが、今回は考え方について説明します。
・朝起きると関節や筋肉が痛くて動けないが、ベッドでモゴモゴしていると少し良くなり、活動開始後10-20分で痛みが消失する。
→前日に疲れた筋肉や関節が寝ている間に冷えて硬くなり、朝目が覚め、硬い筋肉や関節を動かすときに痛み、筋肉や関節が温まりほぐれると症状が消失します。
・やわらかいソファーから立ち上がる、長時間運転し自動車から降りるとき、腰が真っすぐに伸ばせない
→ずっと座りっぱなしの姿勢だと椎間板にストレスがかかり、椎間板内のクッション材が前方に偏ることで生じる症状で、腰を反らして座る習慣、同一姿勢を続けない工夫をすれば軽快します。
・片方の足全体または外側(臀部~大腿外側~下腿外側)に連続するシビレ感(シビレ≠シビレ感・ジンジン感)(図1)

→腰神経由来の神経痛やしびれは、腰神経の走行に沿って生じ、大腿レベルでは斜めに、下腿レベルでは内、外、後に重複する事なく生じます(図2)。外側をずっと下降する神経はないので、これは疲労した筋肉・筋膜から生じるシビレ感です。そもそも筋肉疲労を起こす原因(関節の負担を周囲筋肉がサポート)を探り、原因に対処することが重要で、当面はストレッチや保温で軽快します。


・腰や下肢に出現する左右対称性の痛み、シビレ感、冷感(図3)
→歩行で症状が悪化し立ち止まるようなら腰部脊柱管狭窄症や閉塞性動脈硬化症が疑われますが、その場合は前者であれば脱力感を伴い、後者であれば足趾の血色不良を認めます。一般的に左右対称性で深刻な症状でなければ、年齢的な筋力低下か、自分の筋力や体力に不釣り合いな活動を行っている場合がこれに相当します。
・膝の全体が痛い、しゃがめない
→しゃがめないのは膝に水が溜まっているからです。しかしそれは結果であり、原因は膝の中にあります。軟骨や半月板が痛めば、膝の外側や内側にピンポイントに痛みを生じます。しかし膝蓋骨を中心に全体にモヤモヤとした痛みや違和感がある場合は、大腿筋の筋力低下である場合がほとんどです。大腿筋の筋トレや作業や運動の小分けなどを行えば、1-2か月で症状は軽減していきます。
・安静時に背中、腰、大腿部のチクチクした痛みがあるが、動くと消失する
→運動不足で体重減少やズボンが大きくなった感じがあれば、筋肉が消失している証拠です。無理の無い運動を始めましょう。筋肉が痩せれば骨粗鬆症にもつながりますので、その場合はさらに体重が減少します。

このようにyellow flag signも対処しなければ、いずれは骨折などのred flag signにつながる可能性もあります。また痛み止めを使えばyellow flag signは消失するので、原因探索やそれに対処するチャンスを逃します。痛み止めは最小限にし、自分の体に生じているサインを見逃さずに問題を解決しましょう。

コラム:今朝、水原一平氏に関する大谷選手の会見を見ました。今回の騒動を見て思ったのは、「大谷選手⇔水原氏⇔チーム」というコミュニケーション関係が原因と思いました。私も英語圏に留学していましたから、英語でのコミュニケーションに苦労しました。しかし北米では拙い英語でも、大谷選手のように能力が高ければきっちりと評価してくれますが、もし大谷選手が英語にもっと堪能であれば、「大谷選手⇔チーム」という関係を築くことができ、大谷選手に近づく輩の嘘を見抜き、重要な事は自分がメインとなり対処できたでしょう。私は子供達に「人に騙されないために勉強をしなさい」と言っています。英語だけでなく、いろいろな知識や経験だけが、いざというときに自分を救い守る事が出来ると思っています。大谷選手も今回いい勉強になったと思いますから、これをバネにさらなる活躍を期待しています。


次回は「人間が持つ“自然治癒能力”」です。