人間の身体にあるたくさんのセンサーは常に作動しており、転倒したり捻挫したりしないよう態勢を調整します。しかし体調不良や疲れでセンサーの機能が落ちると、容易に転倒したり捻挫したりします。スポーツをする子供の捻挫は疲れのピークである夕方に、高齢者の転倒による骨折は筋肉やセンサーの働きが鈍い早朝に起こります。

足関節捻挫受傷後はすぐに、RICE(ライス)を行ってください
(rest)患部安静:それ以上競技は続けない勇気が必要
(icing)冷却:氷が無ければ冷水でも効果あり
(compression)圧迫:個人的には不要な気がします
(elevation)挙上:当日はもちろん、数日間は行いましょう
この処置で腫れや痛みが軽減し、その後の回復度に大きく影響します。

足関節捻挫は内側と外側のくるぶし付近に生じます。外側くるぶしで損傷しやすいのは、前距腓靭帯と踵腓靭帯です(図1a赤★)。前距腓靭帯は霊長類には無く、地上二足歩行生活を始めたヒトで発達し、歴史が浅いために靭帯が薄く切れやすいという特徴があります。逆に言えば、もともとそこまでの強度がないので、損傷しても大きな後遺症は残りにくいといえます。

内側くるぶしには三角靭帯があり、いくつかのパートに分かれています(図1b)。内返しでは距骨と外果が大きく開きますが(図1b)、外返しでは内果より外果が長いので、距骨と内果はそれほど開きません(図1c)。よって内側くるぶしの捻挫、すなわち三角靭帯損傷はあまり見かけません。

間違われやすい疾患は内果と外果の骨折ですが、鑑別方法は内出血部位と圧痛部位の違いです(図3)。また足関節内骨折や骨挫傷の場合は緑部分に圧痛があり、片足立ちが出来ません。一方、捻挫は片足立ち可能ですが、歩行時に疼痛が出現します。

一般的に足関節捻挫は保存的治療が選択されます。しかし、プロスポーツなど競技レベルが高ければ手術の可能性もありますが、アマチュアであればほぼ保存的治療で十分です。しかし、まれに足関節の不安定感が強い方がおり、その場合はレントゲン透視下で内返しや外返しを行い、足関節のぐらつき程度を確認し、場合によって手術を検討すべきです。

急性期はRICEですが、その後も粗熱が取れるまでしっかりクーリングを行いましょう(シップではなくアイシング!)。傷んだ靭帯組織の炎症が改善するまで3週間、修復が完了されるまで6週間かかります。よってその間は装具またはテーピング固定し(図4)、痛みが強ければ松葉杖などを利用しましょう。痛みや腫れが落ち着けば、ゆっくりと歩行開始し、6週後からゆっくりと運動負荷を上げて、スポーツ復帰を目指しましょう。


column

経済学の中核を成す理論にミクロ経済学とマクロ経済学があり、ミクロ経済学は私たち個人にとって身近な視点、マクロ経済学は国や地域を含むより広い視点で考えるという違いがあり、どちらも経済分析に欠かすことのできない理論です。“マージナル・サイエンス”とは「実験室レベル」の事実を「人体レベル」まで拡大解釈するようなもので、言うなればミクロ経済を拡大してマクロ経済と同等に扱い経済を語るようなものです。具体的には、「ダイエットに効果」「1袋にモン約960個分のビタミンC」「マイナスイオンでヒーリング」など、これらは“サイエンス”とは毛色の違う“マージナル・サイエンス”すなわち“微妙な科学”です。医薬品以外の、医薬部外品、保健機能食品、栄養補助食品などは、CMで“健康に効果がある”という過大なイメージを視聴者に植え付け、時に紅麴サプリのような有害事象が発生します。自分が“効果がある”と満足すればいいのでしょうが、COVID19のように社会全般に影響を及ぼす場合は、サイエンスに基づく判断が重要になりますCOVID19に関しては発生源やワクチンの効果、パンデミック時の対応など、次回やってくるパンデミックのために今考察を行うべきですが、有耶無耶になりつつあります。実際、パンデミック真っただ中に、サイエンスよりもポリティクスが優先された雰囲気がありました。パンデミックが過ぎ去った今だからこそ、次回のパンデミックに備えて、サイエンスで冷静に考察し、ポリティクスで行動指針を決めるべきでしょう。


次回は正直整形外科「手関節痛のトリビア」です。