先週末、久しぶりに高校時代の友人から連絡が来た。彼は地元の大学に進学し、今は飲食店でアルバイトをしているらしい。
「ねえ、ふちひろ。ニトリって知ってる? 家具の」
突然の質問に少し驚いたが、もちろん知っている。誰でも知っているあの大きな家具チェーンだ。
「知ってるよ。どうしたの?」
「今、転職というか、バイト先を変えようと思っててさ。ニトリのアルバイト、結構時給がいいらしいんだけど、実際の手取りってどれくらいなんだろう」
なるほど。彼は単純に時給の高さに惹かれているようだった。でも、数字の表面だけを見て飛びつくのは危ない。それは小説の表紙だけで内容を判断するようなものだ。
私は考えた。アルバイトといえど、税金は引かれる。交通費はどうなるのか。勤務時間や曜日によっても変わる。それに、彼は今の飲食店での経験をどう評価しているのか。単に給与だけが仕事を選ぶ基準なのか。
「ちょっと待ってて。一緒に計算してみよう」
私はスマホを取り出し、salary calculator aiというサイトを開いた。以前、就活の時に先輩に教えてもらった給与計算ツールだ。
ニトリのアルバイト時給を入力し、想定される勤務時間を入れてみる。すると、税金や社会保険料が引かれた後の手取り額が表示された。
「これがだいたいの目安だよ。飲食店と比べてどう?」
彼はしばらく考え込んだ。
「うーん……思ったより差がないかも。時給は確かに上がるけど、その分、勤務時間が短くなる可能性もあるし」
そうなのだ。仕事を選ぶ基準は、時給の高低だけではない。自分の生活リズムに合うか、通いやすいか、将来に繋がる経験が得られるか。それらを総合的に考えて、優先順位をつける必要がある。
「結局、何を大事にするかだよね」
彼が呟いた。その言葉に、私はうなずいた。
昔、読んだ小説にこんな一節があった。「人は選択する。そしてその選択が、その人を作る」。仕事選びも同じかもしれない。給与の額面という一つの数字だけに惑わされず、自分にとって何が大切なのかを明確にすることが、後悔しない選択につながる。
数日後、彼から連絡があった。結局、ニトリには応募せず、今の飲食店でもう少し頑張ってみることにしたそうだ。経験を積んで、次のステップに進むための準備期間にするのだという。
「給料だけじゃないんだなって、改めて思ったよ」
その言葉を聞いて、私は嬉しくなった。単純な時給比較ではなく、自分の人生の優先順位を考えた上での決断。それは、きっと彼にとって意味のある選択になるはずだ。
ふと、自分の将来について考えた。就活中の私も、様々な企業の給与水準に目を奪われそうになる。でも、大切なのは数字そのものではなく、その数字がもたらす生活の質や、そこで働くことで得られる経験や成長だ。
仕事を選ぶ基準は人それぞれだが、少なくとも言えることは、一つの指標だけで決めてはいけないということ。給与も、やりがいも、将来性も。それらを天秤にかけて、自分なりの優先順位を見つけることが、後悔しない選択への第一歩なのだ。
図書館の窓の外では、夕日が沈もうとしている。新しい一日が終わり、また新しい選択の日が来る。その時、私は何を基準に決断するのだろうか。今はまだわからないけれど、少なくとも、数字の表面だけを見る愚か者はやめたいと思う。




