5月5日(火)、府中市美術館で、『長沢蘆雪展』を見ました。
前期が、『子犬の絵の歴史と蘆雪』。
後期が、『無量寺の竜と虎を考える』。
蘆雪の『子犬』の人気は、高く。
そのため、多くの人びとが押し寄せて、大混雑。
と、美術館の公式サイトが訴え。
で、前期はあきらめ。
後期の無量寺の竜と、虎ならば、客足も、少しは衰えるだろう、と。
しかし、甘い考えでした。
チケットを手に入れるために並び。
1時間は、かかりました。
長蛇の列を見て、心が挫けそうになりましたが。
はるばると、府中まで来て。
しかも、パンランチまで。
少しずつ、列の動くのを、心の支えにして。
作品は、いずれも、撮影不可でした。





上の『子犬』と、下の『子犬』の違い。


かわいい子犬の系譜は、中国、そして、朝鮮から。
しかし、
「鼻筋から頭頂部へのライン」は、日本では、やがて消え。
その長沢蘆雪に至る系譜。


この、可愛い子犬の変遷。
『子犬の絵画史 たのしい日本美術』(金子信久 講談社)。
お薦めの一冊。

人びとの期待が、『かわいい子犬』であるために、前期のみの展示予定の4点が、引き続き後期も展示され。
しかし、長沢蘆雪の描く「子ども」が、少しも可愛くない。
それは、多くの人が感じることのようで。
「子ども」を描いた作品の説明文のなかに、そのことが記されていました。
それによると、かわいい子犬には、その可愛さの『型』があるのに、「子ども」には、その『型』がない、と。
となると、かわいい子どもの『型』が生まれたのは、いつの頃のことなのでしょうか。
今回、前期後期あわせて、140点ほど。
しかし、そのうちの100以上が、『個人蔵』。
なぜ、これほどまでに、『個人蔵』が多いのか?
で、その『個人』とは、どのような人なのか。
と、考えました。
それにしても、伊藤若冲はじめ、曽我蕭白など、いわゆる『奇想の画家』。
今や、一大ブーム。
で、その火付け役となったのが、辻惟雄。
彼の最近の著作である『辻惟雄 最後に、絵を語る。』(集英社 2024)。
そこには、
「いささか心配なのは、この本(注 『奇想の系譜』)が取り上げた伊藤若冲、曽我蕭白その他に人気が集まりすぎて、展覧会でも奇想が優勢。これでは価値の逆転、古い言葉でいえば本末転倒だ。」(P002)。
で、「転倒を恐れ、バランスの回復をひそかに願」い、
「やまと絵に始まり、狩野派、応挙と続く『正統の系譜』」を記したのが、この『辻惟雄 最後に絵を語る。』という著作。
もちろん、絵画においても、それを味わう鑑賞者の好みがあり。
どれほど美味しいと評判でも、その味つけが、口にあわないことは、よくあります。
若冲の『鶏』と、にらめっこをするのは、好きです。
蘆雪の描く『子犬』も。
ベートーベンが、なぜ、『天才ベートーベン』になったか。
ゴッホは、なぜ。
など、など。
その背後にある仕掛人と、『経済』。
美術館のレストランも、『経済』効果を期待して。
そして、満席でした。


『ろせつ たんけんたい』


21世紀の蘆雪を楽しむ、東京で64年ぶりの蘆雪展
府中市美術館では2001年秋に「司馬江漢の絵画 西洋との接触、葛藤と確信」を開催し、その後、2005年の「百花の絵」以降、毎年春に江戸絵画を中心とする展覧会を開催してきました。都立府中の森公園の桜や若葉とともに春の風物詩としてお楽しみいただけたら、との願いもあり、途中から「春の江戸絵画まつり」と呼ぶようになりました。このシリーズは今回で幕を下ろしますが、シリーズに欠かせなかった画家の一人が、江戸時代中期の画家、長沢蘆雪です。
美術の魅力や価値は時代によって変わります。例えば伊藤若冲は、明治時代から根強い人気があった画家ですが、サイケデリックアートも流行していた1970年、辻惟雄氏の著書『奇想の系譜』によって、その鮮烈で奇異な表現が注目されました。また、2000年に京都国立博物館で開催された「没後200年 若冲」展を機に、コンピューターを使ったグラフィックや映像が普及した時代らしく、細密さや色彩の凄みに多くの人が魅了されるようになりました。そうして今日の若冲の人気が確立されたように思われます。
蘆雪も同様です。明治36年(1903)の藤岡作太郎の『近世絵画史』では、ときにアイディアと構成力は応挙を上回ると評価され、大勢いる応挙の弟子の中で呉春とともに真っ先に挙げられながらも、「覇気」が溢れ出てしまい応挙のような落ち着きや深みがない、と書かれています。ところが、辻氏の本ではその「覇気」が逆に奇想として注目され、一躍、日本美術のスターの一人になったのです。
そして21世紀。たくさんのキャラクターや動物が人気を集める時代にあって、蘆雪のもう一つの魅力が脚光を浴びるようになりました。それが「かわいい」です。子犬や動物、子どもたちを描いた蘆雪の作品は、見ているだけで胸が苦しくなるほど、愛おしさに溢れています。きっと大昔から、人々は小さなものやかわいいものに心を寄せてきたことでしょう。蘆雪はそうした心を一枚の絵画の中に表現し、江戸時代きっての「かわいいもの描き」となったのです。蘆雪の根っこにある禅の思想や、命あるものを慈しむ仏教の教えも見逃せません。
かわいいものに加えて、風景や人物、ファンタスティックな世界など、蘆雪の絵画は多彩です。東京で64年ぶりとなるこの蘆雪展では、春の江戸絵画まつりで注目してきた蘆雪のさまざまな創作を振り返りつつ、「21世紀の蘆雪」をお楽しみいただきたいと思います。